第十一話 訪日使節団(三)
羽田空港 第一ターミナル。
「……人が多いですね」
「これでも、以前より減ってるんです」
「これでですか?」
「国際線が無くなりましたから」
「なるほど……」
「こちらへどうぞ。車が用意されています」
「ホテルまでは、どのくらいかかるのですか?」
「道路の状況にもよりますが、40分ほどかと」
「空港から中心部まで、そんなにかかるのですか?」
「東京は広いですから」
「……ここも東京都内なのですよね?」
「はい。羽田も東京都です」
「これほど栄えていても、まだ中心部ではない、と」
車列が動き出す。
「……車が多い」
「東京は人が多いですから」
「葦原ですら、到底及びません」
「ちなみに東京の人口は?」
「東京都だけなら、およそ1400万人です」
「1400万……」
「しかも、周辺にも都市が続いているのだから……末恐ろしい」
「建物も途切れませんね」
「それは、中心部へ向かっていますから」
「ヴァルデンの首都でも、これほどの都市圏はないでしょう」
「人口だけなら健闘していますが、違いは都市の規模ではありません」
「都市基盤か」
「ええ。道路、鉄道、電力、水道。それらが広範囲に整備されています」
「それも中心部だけではない。見える限り、都市が続く限り、だ」
「……日本の工業力は、我々の想像していた以上かもしれません」
「技術そのものだけでなく、それを大規模に運用する能力が驚異的です」
「……まもなく到着しますね。昼食はこちらでご用意しております。東京での滞在中、皆さんはこちらのホテルでお過ごしいただく予定です」
「分かりました」
昼食後。
「ご馳走になりました。ところで、この後の予定は?」
「明日の午前までは、特にありません」
「それなら、東京の街並みを見物させていただけませんか」
「観光ですか? 明後日の予定でしたが……今日でも問題なさそうですね」
「ありがとうございます」
「承知しました」
再び車に乗り込む。
「浅草寺までは?」
「三十分ほどです」
「東京は移動にも時間がかかりますね」
「大都市ですから」
「葦原では、中心部なら歩いて回れます」
「東京では、そうはいかないのですか?」
「場所によりますね。公共交通機関もありますから」
「なるほど」
「到着しました」
「ここが浅草寺ですか」
「はい」
「東京の中心部に、これほど古い建物があるのですね」
「浅草寺は東京でも特に有名な寺院です」
「日本の人々は、今でも参拝するのですか?」
「はい」
「古いものも残しながら、あれほど新しい建物を造っているのか……」
「興味深いですね」
「よろしければ、何かお土産を見ていかれますか?」
「土産物ですか?」
「雷おこしや人形焼などが有名ですよ」
「では、少し見てみましょう」
「私はこちらを買いましょうか」
「家族への土産ですか?」
「ええ」
「私も何か選んでいきます」
「……?」
「どうしました?」
「何ですか、あれは」
「どれです?」
「後ろです」
一行が振り返る。
「……高いな」
「何だ、あの白い塔は?」
「そう言えば……飛行機から、何か白いのが生えてるのを見た気がする」
「さっきのあれが、あれか」
「はい。東京スカイツリーですね」
「スカイツリー?」
「ええ」
「高さは?」
「634メートルです」
「634……」
「これから、あちらへ向かいます」
「あれに?」
「はい。近いですから」
「徒歩ですか?」
「そうなります」
「分かりました」
「それでは、そろそろ次へ向かいましょうか」
「はい」
雷門の下を通り、浅草寺を出る。
数分後。
「近づくと、さらに大きいですね」
「そうですね」
「ところで、あれは何のための施設なのですか?」
「各家庭のテレビに映像を送るための施設です」
「テレビ?」
「テレビって……ヴァルデンが開発した、あの?」
「札幌のホテルの部屋にもありましたよ?」
「え?」
「気付かなかったんですか?」
「……」
「テレビとは、こう……箱型のものでは?」
「薄型テレビは一般家庭にも普及していますよ?」
「……我が国では、電波式のラジオが一般家庭にやっと普及したばかりなのに」
「テレビが、既に一般家庭に?」
「ええ、はい」
「その映像の送信を、この施設で?」
「その通りです」
「……」
「日本の技術は、ヴァルデンよりもずっと上なのでは?」
「少なくとも、我々が知っているものとは規模が違う」
さらに数分後。
東京スカイツリー駅前。
「到着ですね。皆さん、上を見てください」
「……高すぎて首が痛い」
「わかります」
「……」
「エレベーターで展望台へ上がれます」
人の列に並ぶ。
エレベーターに乗るとドアが閉まり、上昇を始めた。
「あまりにも速すぎやしないか?」
「建物自体が高いですし、特注品でしょう」
身体が浮き上がるような感覚がしたあと、上昇が止まる。
「450メートル……」
「さあ、降りましょう」
展望台に出る。
夕日と、それに照らされた東京の街並みが目に入った。
「これは……」
「都市が、どこまでも続いている」
「……」
「広いし……」
「しかも、高い」
「……飛行機からじゃ、気付かなかった」
使節団は、しばらく窓の外を見つめていた。
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