表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇は満月に咲かない  作者: Rii
神話幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/66

第36話 世界が始まった夜

深い森に覆われた地。魔物が多く棲みつき、人間は滅びる寸前だった古代の話。


遥かな星から、この地を観測するため降り立ったアストラは、巨大な魔物によって“帰る術”を失った。


アストラは青い瞳を除けば、この地の人間と何も変わらぬ姿をしていた。だが、星を詠み未来を観測するその力だけは、明らかに異質だった。その力ゆえに、人々は次第に彼を“導く者”として崇めるようになった。


人間は、魔物に喰われる側だった。しかし魔物は、アストラを襲わなかった。星を詠む彼だけが、災いの訪れを誰より先に知っていたからだ。


アストラが人間をいくら保護しても、人間の寿命は短い。名前を覚えた頃には、皆、土へ還っていく。魔物から保護するのも限界で、人間という種そのものが、静かに数を減らしていた。


孤独を感じながら、それでも夜ごと空を観測し続けた。帰れなくなったあとも、無意識に星を探し続けていたのかもしれない。


そんなある日。月を観測する中で、アストラは“この世界の外側に存在する力”に気づく。


──神なら、この状況を救えるのではないか。


アストラは、星詠みの盤を使い、幾度も月を観測した。それは救いを求める祈りだったのかもしれない。


そして、ある夜。“月”が応えた。月から現れたのは、女神ルミナス──。


女神ルミナスは、月光そのものが人の形を取ったような存在だった。金の髪は夜の中で静かに揺れ、その姿を見た瞬間、誰もが“光を見ている”のだと理解した。けれど、その金の瞳だけは、ひどく寂しそうだった。


人間たちの最大の恐怖である、燃えるような赤い角に鋭い牙を持つ最強の魔物。──ノクティス。ノクティスは、常に飢えていた。血肉だけでは埋まらない、終わりのない渇き。


ルミナスは、ノクティスに契約を持ちかけた。魔物たちが、人間を喰らわずとも生きられる世界を作る。その代わりに。人間を──そして、この世界を守って欲しい。


世界が滅べば魔物もまた滅ぶ。ノクティスはそれを知っていた。だから──ルミナスの契約を受け入れた。


ノクティスは契約の証として、“血印”へ魔族の王の力を封印した。その瞬間、燃えるような赤い角は、赤髪へ姿を変えた。──しかし、牙だけは消えなかった。飢えの名残だけが、最後まで消えなかった。


ルミナスは、魔族の王ノクティスと人間が共に生きる時代を築いた。そして、その均衡を繋いだのがアストラだった。


──宇宙から落ちた青。


──魔を継ぐ赤。


──月の神が宿す金。


三つの血を断絶させぬように。三つの力が、争い合わぬように。神は、その全てを繋ぐ名を与えた。


──“ヴァル”。


それは契約を継ぐ血。三つの力を繋ぎ、世界の均衡を留める者の名。未来を観測する青。世界を統べる赤。月を宿す金。その血は、幾度も混ざり合いながら受け継がれていった。


──そして今では、“ヴァル”の血を継ぐ者は皆、牙を持つ。──飢えもまた、血と共に受け継がれながら。


それが、ノクティス王国に伝わる『世界創世の神話』である。



◇◇◇



王家が知るのは、ここまで。──実はこの話には続きがある。


ルミナスは、崩れかけた世界を繋ぎ止めるために降臨した。ルミナスが降り立った夜。月は、空から姿を消した。星を詠む習慣のない世界で、そのことに気づいたのはアストラだけだった。


本来、神が人の世界に留まり続けることは許されない。干渉しすぎれば、世界そのものを壊してしまうからだ。月が消えた夜は、世界の均衡が揺れる。ルミナスに残された時間は、多くなかった。月が戻る前に、“世界の均衡”を人の側へ託さなければならなかった。それは世界のためであり──同時に、別れの期限でもあった。


そのために選ばれたのが、アストラ。けれど、アストラは人間ではない。星の外から来た観測者。未来を視る者。可能性を観測し、時にその未来すら固定してしまう者。それは、神にすら恐れられた力だった。


ルミナスは、アストラに「決して王になるな」という契約と、“王を観測し続ける役目”を与えた。



◇◇◇



ルミナスは世界を固定するまで月へは帰れなかった。アストラもまた、星へ帰る術を失っていた。だから二人は長い時間を共にした。


世界を見守りながら。人間の誕生を。魔族の変化を。そして気づけば、互いだけが同じ時間を生きる存在になっていた。


均衡を築く中で、ルミナスとアストラは互いに愛を抱くようになる。


けれど──神と観測者。異質な力を持つ者同士が結ばれると、世界は固定されてしまう。


女神は世界を救った。けれど、ひとりだけ置いていけなかった。その未練が、時を歪めた。世界が許さなかった時間だけが、二人のものだった。


時空干渉──女神の金の懐中時計だけが、誰にも知られぬ時を刻み続けた。


“星詠みの盤”は、アストラの血と共に受け継がれた。


“血印”は、ノクティスの血と共に残り続けた。


数百年もの間、“懐中時計”は誰にも選ばれなかった。


世界が再び均衡を失おうとした今。女神に選ばれし者が現れる。


──エリオ・ヴァル・ルミナス。


時を継ぐ、最後の王族。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ