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第39話 返さないのは私の席

王都から最後に届いたのは、丁寧すぎる栄転案内だった。


 保険不正を摘発した功績を認め、王都通商院への登用を検討したい。待遇も住居も整える。要するに、今度は以前より高い席を用意するから戻れという話だ。


 私は紙を読み終え、静かに脇へ置いた。


「迷いませんね」


 レベッカが少し驚いたように言う。私は笑った。


「昔の私は、席そのものが欲しかったんです。でも今の私は、どこに座るかを自分で決めたい」


 返書は短くした。


『御厚意に感謝いたします。しかし私はノルトエルト港通商長の職責を離れる予定はありません』


 それだけで十分だった。誰かの妻の席でも、家名を整える娘の席でも、王都が与える見栄えのいい席でもない。返さないのは役職そのものではなく、自分で選んだ場所だ。


 夕方、返書の封を閉じる私を見て、アーベルが訊く。


「本当にいいのか」


「ええ」


「後から惜しくなるかもしれない」


「惜しくなったら、自分で取りに行きます。でも今は違う」


 私は封蝋を押した。


「今、座りたい席はここです」


 その言葉を口にした瞬間、ようやく完全に自分のものになった気がした。


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