表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/40

第40話 海の見える執務室で

新しい執務室の窓からは、港の先までまっすぐ海が見えた。


 帳簿棚、公開板の控え、検品札の箱。そして窓際には、小さな丸卓が一つ置かれている。昼をまたいで仕事をする日が増えるだろうと、私が最初に頼んだ家具だった。


 その卓に、今日は二人分の昼食が並んでいる。白身魚の香草焼きと、豆の温菜、澄んだ魚介スープ。港の仕事を象徴するような、飾りのない献立だ。


「執務室らしくなったな」


 アーベルが窓辺に立つ。私は椅子を引きながら答えた。


「食事ができるので、かなり」


 彼は小さく笑い、それから卓の向かいではなく隣へ来た。


「エレナ」


 名前を呼ばれ、顔を上げる。


「港の再建はまだ続く。艦隊も、通商も、また面倒を増やすだろう」


「ええ」


「それでも、君の隣にいる立場を、仕事以外の言葉でも決めたい」


 呼吸が止まりそうになる。けれど視線は逸らさない。


「正式に、婚約を申し込みたい」


 提督らしい、回りくどさのない言葉だった。私は少しだけ笑ってしまう。


「条件があります」


「聞こう」


「私は通商長を続けます。席も印も手放しません」


「望むところだ」


「海の見える卓は、ときどき私が先に使います」


「それも構わない」


 即答に、今度は私のほうが笑った。


「では、お受けします」


 窓の外では、整え直した灯台が昼の光を返している。保険簿の嘘も、市場の濁りも、前ほど簡単には戻れないだろう。私は匙を取り、隣に座る人の気配を確かめる。


 追い出された先で終わるはずだった人生は、海の見える執務室で続いていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ