38/40
第38話 新しい役職表
翌週、港役所の壁に新しい役職表を貼り出した。
通商長エレナ・ヴァイス。食卓検査補佐ノーラ・ベルン。倉庫管理主任クララ・エッダル。公開料金掲示責任者ラース・ホフ。保険登録簿の担当欄まで、今回は最初から埋めた。
「名前があると逃げにくいですね」
ノーラが苦笑する。
「ええ。でも、助けも求めやすいわ」
王宮で欲しかったのは、こういう表だった。失敗した時に責めるための名簿ではなく、困った時にどこへ声をかければいいか分かる表だ。
昼には町の商人たちも見に来た。誰が印を持ち、誰が確認し、誰が公開板を書き換えるのか。組織図一枚で、人は思った以上に安心する。
壁の前に立ったまま、私は少しだけ見上げた。知らないうちに、『通商長様』という呼び方にも肩の力を抜いて振り向けるようになっている。
背後からアーベルが言った。
「いい表だ」
「机より、壁に貼られてこそ意味があります」
「君自身もその通りだ」
この港で働く人たちの名前が、もう隠れる必要のない形で並んでいる。眺めているだけで、息がしやすかった。




