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第36話 冬備蓄の公開契約
冬備蓄の公開契約は、港の食堂で行った。
穀物、塩魚、乾燥豆、灯火油、薪。必要量と保管条件を全部壁へ貼り出し、誰でも見える場で入札を受ける。特別扱いはなし。伯爵府向けも艦隊向けも、同じ条件で競わせる。
最初はざわつきもあった。『裏で決めたほうが早い』とぼやく声もある。けれど私は譲らない。
「早さより、冬の途中で崩れないことが大事です」
ユッタは魚の保管温度を自分から書き込み、クララは倉庫の余力を公開した。レベッカも銀行の立場で保証条件を示す。透明な場にすると、大人たちは案外ちゃんと交渉する。
最終的に決まった価格は、去年より安いのに中身が明確だった。誰がどこで何を受け持つか、曖昧な欄が一つもない。
契約印を押し終えたとき、食堂の奥で小さく拍手が起きた。大げさなものではない。それでも私は少しだけ息を抜く。
「これで冬は持ちます」
私が言うと、アーベルが隣で答えた。
「港もな」
港も。そう言われて、ようやく今やった仕事の大きさが実感できた。食卓を守ることと、港を守ることは、もう別々ではない。




