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第34話 偽装沈没の保険金
公開監査の日、桟橋には再び長机が並んだ。
第一幕の不正台帳とは違い、今度の主役は保険簿だ。荷揚げ時刻、宿泊記録、夜食札、灯台修繕見積、石の入った穀物樽。海で起きたことに見せかけた嘘を、港の生活記録で崩していく。
「リヴィア号は濃霧で損傷したと申請されました」
私が口火を切る。
「しかし難破したはずの乗組員は、前日から宿を取り、夜食を受け取り、荷の積替えにも参加していました」
ざわめきの中、レベッカが銀行査定官として補足する。
「損害率を前提に信用枠を組ませるつもりだったのでしょう。港を弱らせ、買い叩くために」
保険組合査定官フランツ・ホルムは最後まで強がったが、灯台の減音布と油袋が出たところで崩れた。
「俺だけじゃない……フェナールが、北航路を『危ない港』にしろと……!」
名前が出た瞬間、兵が動く。帳面と財産の凍結、保険組合への立入封鎖。逃げ道はない。
群衆がどよめく中、アーベルが低く告げた。
「この港を脅して儲ける時代は終わりだ」
私は深く息を吸う。風は冷たいのに、胸の奥だけが熱い。
隠された損失を洗い、数字の濁りを取り除く。やっていることはずっと同じだ。ただ今は、その仕事に名前がつき始めている。




