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第33話 夜明け前の灯台査察

最終確認のため、私たちは夜明け前に再び北岬の灯台へ向かった。


 空はまだ青黒く、海だけが先に白み始めている。灯台守に事情を話して塔へ上がると、鐘木に妙な布が巻かれていた。打っても音が鈍るよう、わざと厚い羊毛で抑えてある。


「修繕ではなく、減音ですね」


 私は布を外した。油槽の底には水が混ぜられ、火は長く持たない状態になっている。事故が起きるほどではなく、けれど『視界不良で判断が遅れた』と言い張れる程度の細工だ。


 アーベルが窓の外を見た。


「見張り台から岬は十分見えている。少なくとも、記録上の『深い霧』は嘘だ」


 灯台守が顔を青くする。


「夜中に業者が入ったことはあります。王都指定だと聞いて通してしまった」


 塔の工具箱には、例の指定業者の札と、保険組合の封がついた油袋が残っていた。証拠としては十分すぎる。


 私は羊毛布を畳み、ふっと息を吐いた。


「海は悪くなかった。悪かったのは、人のほうです」


 夜明けの光が、再び鳴るようになった鐘へ落ちる。ここまで揃えば、公開監査で終わらせられる。


 私は手袋を締め直した。


「今度こそ、保険台帳に終止符を打ちましょう」


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