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第32話 王都銀行の査定官

三十二歳の王都銀行査定官レベッカ・シュナイダーが港へ着いたのは、雨の朝だった。


 冬備蓄の信用枠を見直すためだという。腐敗騒ぎの直後に来るあたり、王都もまだノルトエルトを信用しきってはいない。


「綺麗な報告書ほど疑ってかかります」


 席につくなり、レベッカはそう言った。私は嫌いではない、とすぐ思った。綺麗すぎる数字が危ないのは本当だからだ。


 私は保険登録簿、公開聴取の議事、検品札の運用書を順に見せた。良い数字だけではなく、失敗例と差し止め件数もそのまま並べる。


「隠さないんですね」


「隠したほうが後で高くつきます」


 レベッカは黙って台帳を追い、やがて小さく頷いた。


「冬備蓄に必要なのは、完璧な港ではなく、損失を早く見つける港です」


 その言い方は好きだった。失敗しないことではなく、腐る前に見つけること。まさに私がやってきた仕事だ。


「信用枠は前向きに検討します。ただし条件があります」


「何でしょう」


「保険組合の不正を公開処理すること。書類だけで済ませないでください」


 私は笑った。


「同感です」


 雨音の向こうで、港の鐘が鳴る。必要なのは、味方より、同じものを嫌う人だ。レベッカはそういう相手だった。


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