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第30話 空の船倉と重い石
翌朝、保険申請予定の商船リヴィア号へ検査に入った。
申告では高級穀物三十樽。けれど甲板下へ降りた瞬間、私は眉をひそめた。穀物特有の甘い粉の匂いが薄い。代わりに湿った石と古縄の重い匂いがした。
「樽を開けます」
船長が慌てて止めようとするより先に、兵が蓋を外す。中から出てきたのは半分の穀物と、底に詰められた丸石だった。
「喫水合わせですね」
私は冷たく言った。
「積んだように見せて、保険は満額で請求する」
別の樽も同じだ。船倉は数字ほど重くなく、帳簿だけが重い。クララの証言はこれで裏づいた。
追い詰められた副船長が座り込む。
「俺たちは積替え役だ。保険組合の査定官と、王都の調達屋が組んでいた。灯台が止まれば『霧で迷った』で通るって」
アーベルが一歩前に出る。
「名を言え」
「査定官フランツ・ホルム……それと王都のバルテル・フェナールです」
第一幕で出た名が、違う顔をして戻ってくる。腐敗はしつこい。けれど、今回は積荷まで押さえた。逃がさない。
私は石の入った樽を見下ろした。
「空っぽなのは船倉ではなく、あなたたちの言い訳です」




