↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/40

第26話 倉庫番クララの証言

午後、港の第三倉庫で待っていたのは、三十四歳の倉庫番クララ・エッダルだった。


 革手袋のまま帳面を抱えた彼女は、私を見るなり低い声で言った。


「やっと、この話を聞いてくれる人が来た」


 見せられたのは公式簿ではない。荷車番号と積替え時刻だけを走り書きした私的控えだ。


「保険処理が入る便だけ、出港前に妙な積み替えがあるんです。穀物樽を積んだはずの船へ、夜中に石袋を戻していた」


「石袋?」


「喫水を合わせるための重しです。見た目だけ荷を積んだ船に見せる」


 私は控えの時刻を追った。例の三隻とぴたり合う。さらに夜食の受取票までついていた。積替えに関わった人足が、毎回同じ食堂から同じ数のスープを受け取っている。


「なぜ今まで黙っていたの」


 クララは苦く笑った。


「前の体制じゃ、言ったほうが消されるのは帳面じゃなく私の口でした」


 冗談ではない。ここまで来ると制度の問題ですらない。黙らせる側が、長く勝ちすぎただけだ。


「もう大丈夫です」


 私は彼女の控えを丁寧に受け取った。


「今度は控えではなく、公文書にします」


 クララの肩がわずかに下がる。その動きだけで、この港がどれだけ長く息を殺していたかが分かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。