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第26話 倉庫番クララの証言
午後、港の第三倉庫で待っていたのは、三十四歳の倉庫番クララ・エッダルだった。
革手袋のまま帳面を抱えた彼女は、私を見るなり低い声で言った。
「やっと、この話を聞いてくれる人が来た」
見せられたのは公式簿ではない。荷車番号と積替え時刻だけを走り書きした私的控えだ。
「保険処理が入る便だけ、出港前に妙な積み替えがあるんです。穀物樽を積んだはずの船へ、夜中に石袋を戻していた」
「石袋?」
「喫水を合わせるための重しです。見た目だけ荷を積んだ船に見せる」
私は控えの時刻を追った。例の三隻とぴたり合う。さらに夜食の受取票までついていた。積替えに関わった人足が、毎回同じ食堂から同じ数のスープを受け取っている。
「なぜ今まで黙っていたの」
クララは苦く笑った。
「前の体制じゃ、言ったほうが消されるのは帳面じゃなく私の口でした」
冗談ではない。ここまで来ると制度の問題ですらない。黙らせる側が、長く勝ちすぎただけだ。
「もう大丈夫です」
私は彼女の控えを丁寧に受け取った。
「今度は控えではなく、公文書にします」
クララの肩がわずかに下がる。その動きだけで、この港がどれだけ長く息を殺していたかが分かった。




