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第25話 灯台鐘の修繕見積

翌朝、北岬の灯台へ上がる坂道は風が強かった。


 霧鐘台の修繕見積は、私の手にあるだけで三通。縄車の交換、鐘木の補修、灯火油槽の清掃。内容は似ているのに金額だけが倍近く違う。


「この高い見積、どこが出したの?」


 灯台守の四十代半ばの男が、帽子を取りながら答える。


「王都の指定業者です。閉鎖期間も二十日必要だと」


「二十日」


 私は思わず繰り返した。春の北航路で灯台を二十日止めれば、保険料は跳ね、護送付きの別航路だけが儲かる。


 鐘木を確かめると、確かに傷みはある。だが現場の大工なら三日で済む程度だ。油槽も昨日掃除したばかりのように綺麗だった。


「直す気ではなく、止める気ですね」


 私が言うと、アーベルが海を見下ろしたまま低く答えた。


「灯りが消えれば、事故は作りやすい」


 見積書の端には、北航路海上保険組合と同じ書記癖の数字があった。七の払いが長く、四が潰れている。査定印だけでなく、見積の数字まで同じ手元を通っている。


 私は灯台守に向き直る。


「閉鎖申請は保留にします。現場修繕へ切り替えたい」


 彼はほっと息をついた。


「助かります。ここを止めれば漁船が困る」


 帳簿の向こうには、いつも暮らしがある。そこを忘れない限り、私はまだ正しい線の上に立てる。


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