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第24話 提督に届いた異動打診
夕方、提督府から戻ったアーベルの手には、封の切られた軍令書があった。
紙質を見ただけで王都だと分かる。嫌な勘はよく当たるものだ。
「異動ですか」
私が先に訊くと、彼は一拍だけ黙った。
「打診だ。王都中央艦隊へ戻れと」
胸の奥が、帳簿より先に沈んだ。ノルトエルトの不正を洗い、港を立て直した頃合いで、功績ごと人を引き上げる。王都らしい人事だ。
「受けるつもりですか」
「まだ返答していない」
それだけ聞けば十分だと頭では分かっていた。けれど声は思ったより硬くなる。
「港の監査は、まだ終わっていません」
「分かっている」
短い返答のあと、アーベルは軍令書を机へ置いた。
「君が来る前なら、迷わず受けていたかもしれない」
視線が合う。仕事の話をしているはずなのに、別の意味まで含んで聞こえるから困る。
「では、迷ってください」
ようやくそれだけ言うと、彼の口元がわずかに緩んだ。
「命令形か」
「通商長ですから」
ふっと空気がゆるむ。けれど打診は消えない。私は話を戻した。
「移るにせよ残るにせよ、その前に灯台鐘の修繕見積を見たいです。霧損保険と繋がっている気がする」
「明朝、現場へ行く」
仕事の段取りはいつも私たちを救う。感情の名前を急がずに済むからだ。
それでも、軍令書の白さは、帰るまでずっと目に残った。




