第18話 公開監査は桟橋で
公開監査の日、ノルトエルトの桟橋は法廷のようだった。
長机が並び、押収帳簿、受領札、偽印章の写し、貸出簿の控えが順に置かれる。港の商人、船員、町の店主、兵、書記。皆が見える場所だ。
王都からは会計監査院の使者と、しぶしぶといった顔の航路局官吏が来た。ギデオンもリディアも姿を見せている。逃げなかったのではなく、逃げられなかったのだろう。
オットーが開会を告げ、私に報告を促す。
私は一歩前へ出た。
「ノルトエルト港における通行税、係船料、倉庫使用料の欠損は、現場の不正徴収にとどまりません。王都航路局から流された優先札、セルジュ商会への架空支出、ベッセル商会への便宜供与、そして偽印章を用いた免税申請が確認されました」
ざわめきが広がる中、私は紙を一枚ずつ示していく。番号の飛んだ札。書き換えられた鍵台帳。十三番倉庫の封印記録。リディア署名の免税申請。偽印章の欠け方比較。
「最後に、こちらがブラント家経由で届いた干渉書簡です」
ギデオンが初めて声を荒げた。
「私的書簡を公の場に出すな!」
「公務への干渉だから公です」
オットーが冷たく言い切る。ギデオンは言葉を失った。
リディアは青ざめながらも前へ出た。
「わ、私は知らされただけです! ギデオン様が、これは正式手続きだと……」
「ではなぜ、あなたの署名で申請したの?」
「代理だと聞いて……」
「代理任命の記録はありません。印章も偽物です」
私は偽印を卓上へ置いた。蝋の欠けが、誰の弁明より雄弁だった。
沈黙の後、ラルフ、支店長、捕まえた使者までが順に証言した。金の流れ、指示系統、偽札の受け渡し。もう覆らない。
最後にアーベルが言った。
「北の港は流刑地ではない。王都の腐敗を沈める海でもない」
その声は潮風を切り、広場じゅうへ届いた。
オットーは正式に、ギデオンの職務停止とリディアの身柄拘束、関係商会の会計封鎖を宣言する。
歓声ではなく、大きな吐息が広場を満たした。
ようやく、終わる。
そう思った瞬間、膝が少しだけ震えた。けれど隣に立つアーベルの気配が、それを支えてくれた。




