第16話 港湾封鎖と臨時市場
追い詰められた側は、だいたい露骨になる。
ノルトエルトへの正規雑貨便が、二日連続で入らなかった。理由は“王都の港湾整理による出航調整”。けれどそんなものは名目にすぎない。生活物資を絞って、こちらが折れるのを待っているのだ。
「兵の配給は三日なら持つ」
アーベルが言う。
「町はもっと早く干上がります」
私は即座に代替案を書き出した。近隣漁村からの直接買い付け、内陸街道の荷馬車便、塩と乾魚の交換市場。正式便が来ないなら、港の中だけで回すしかない。
「臨時市場を開きましょう」
「許可は」
「監査官と提督の連署で出せます。緊急保全措置として」
その日の午後には、桟橋脇の広場へ長机が並び、漁村から運ばれた魚樽と内陸の豆袋が積まれた。マルタが大鍋を出し、書記たちが価格札を書く。
「監査官様、こんなことまでやるのかい」
マルタが驚く。
「値段が安定しなければ、どのみち帳簿がまた歪むもの」
市場は予想以上にうまく回った。子どものいない大人ばかりの港町だからこそ、皆が働き、助け合い、取引を覚えている。誰かが正しい枠を作れば、あとは案外早い。
夕方には、停止していた食堂の仕入れも半分戻った。
「王都の嫌がらせが逆に町を強くするとはな」
アーベルが言う。
「そうでもしないと、自分たちで回せると気づけなかったのかもしれません」
広場では、仕事帰りの船員たちが鍋を囲んでいる。笑い声まで戻っていた。
その光景を見ていたら、不意に肩へ外套が掛けられた。アーベルのものだ。
「また冷えてきた」
「提督の方が寒いでしょう」
「私は平気だ」
またその台詞だ。でも今度は素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます」
彼は何も言わず、少しだけ視線を逸らした。
潮風の中で並んで立つ。その沈黙が不思議と気まずくない。
王都では得られなかったものが、少しずつここに積み上がっていく。




