表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

第14話 離婚した夫が港へ来る日

ギデオンがノルトエルトへ来たのは、その三日後だった。


 晴れた昼の港へ、磨き上げられた馬車が止まる。辺境には似合わない艶のある黒塗りだ。扉が開き、彼はいつも通り整った笑顔で降りてきた。


「久しぶりだね、エレナ」


「監査対象との私的会話は控えたいのだけれど」


 私が桟橋で迎えると、彼の笑みがわずかに薄くなる。後ろには護衛が二人。だが一歩引いた位置に、アーベルが立っていた。


「私は私的な話をしに来たつもりはない」ギデオンは言う。「王都を代表して、北の物流停滞を憂慮している」


「停滞の原因なら、王都から流れてきた偽札と密輸船が答えてくれました」


「証拠もないのに騒ぎすぎだ」


「あるから騒いでいるの」


 私は封筒の偽蝋封、押収した優先札、セルジュ商会への支出記録写しを順に見せた。ギデオンは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに涼しい顔へ戻る。


「偽物なら、なおさら私とは無関係だろう」


「そう言うと思っていたわ」


 そこで私は最後の紙を出した。ヘルミナから送られた貸出簿写し。王都航路局で紛失扱いになった札番号の一覧である。


「紛失報告の署名、あなたの部下のものね。報告日が、ノルトエルトで欠損が始まった前日よ」


 ギデオンの口元が硬くなる。


「君は……本当に昔から、余計なところまで見ていた」


「あなたが見ていなかっただけです」


 彼は一歩近づき、声を落とした。


「エレナ、ここでやめろ。今ならまだ、君の経歴に傷はつけずに済む」


「もう離婚されていますから、傷をつける夫の権利はありません」


 横でアーベルが口を開く。


「航路局次官殿。港内での圧力行為は記録する」


 ギデオンはようやく提督を見た。王都では利用価値で人を見る男だ。辺境提督を侮っていたのだろう。


「軍は通商に口を出すべきではない」


「軍需品が密輸と一緒に運ばれていた以上、私の管轄だ」


 正論に、ギデオンは返す言葉を失った。


 去り際、彼は私だけに聞こえるように言った。


「リディアを敵に回すな。君には分が悪い」


「印章の偽造は、だいたい分が悪いものよ」


 彼は何も言わず馬車へ戻った。


 私はその背を見送り、静かに息を吐く。もう怖くない、とは言わない。怖さはある。でも、それ以上に腹が据わっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ