第13話 霧の夜の密輸船
霧の濃い夜は、港がいちばん嘘をつきやすい。
だからこそ、その夜を待っていた。
ラルフの証言どおりなら、王都便を名乗る使者は月末の霧夜に現れる。私はアーベルと相談し、第三桟橋を普段通りに見せかけながら、見張りを二重にした。
夜半、鐘も鳴らさず一隻の中型船が滑り込んできた。帆には紋章なし。けれど灯火の数が多すぎる。急ぎ便を装う密輸船だ。
「来たわね」
私は詰所の二階窓から桟橋を見下ろす。隣でアーベルが静かに合図を待っている。
船が着くと、黒外套の男が一人降りた。手には封筒。徴収所へ向かい、当直へ見せようとした瞬間、私は階下へ降りた。
「その札、確認します」
男は一瞬だけ怯み、すぐに笑みを作る。
「王都航路局の急送便です。触れないでいただきたい」
「では正式記録を取ります」
封筒を受け取ると、蝋封は確かにブラント家の紋だった。だが押し方が浅い。印章の重みを知らない人間の押し方だ。
「偽物ね」
私が言った瞬間、男は封筒を奪い返そうと腕を伸ばした。だがその手は、横から出たアーベルにあっさり捻り上げられる。
「港内で監査官に手を出すな」
兵が一斉に動き、桟橋の両端を塞ぐ。密輸船の船員たちは霧に紛れて逃げようとしたが、今夜はそうはいかなかった。
船内検査で見つかったのは、免税扱いの薬草樽に隠された高級香料と銀食器、それに王都向け軍用図面の写し。もはや密輸だけでは済まない。
「王都の誰へ渡すつもりだったの」
私は捕らえた男へ問う。
「知らん……俺は運ぶだけだ」
「その割には、ブラント家の偽封蝋まで持っていた」
男は黙り込む。だがもう十分だった。
霧の中、アーベルが私へ外套を差し出した。
「冷える」
「提督もです」
「私は慣れている」
「私も今夜から慣れます」
彼はわずかに目を細めた。
船が曳航されていくのを見送りながら、私は思う。王都が私を遠ざけた結果、逆に隠していたものが北で次々浮き上がっている。
潮と霧は、案外こちらの味方かもしれない。




