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第11話 王都から来た甘い手紙

その手紙は、驚くほど上等な紙で届いた。


 封蝋にはブラント家の紋章。見なくても差出人はわかる。私は官舎の机でそれを開き、冒頭一行で鼻で笑った。


『親愛なるエレナへ』


 離縁状を突きつけた男が、よくもまあ親愛などと書けたものだ。


 文面は甘かった。王都は君の不在で混乱している。リディアはまだ慣れず苦労している。今なら形だけの謝罪も用意できる。辺境で無理をせず、穏便に手を引いて帰ってこないか。


 要するに、余計な帳簿を開くな、である。


「燃やしますか」


 昼の報告に来たアーベルが手紙を見て言った。


「証拠なので取っておきます」


「甘い文面だな」


「ええ。毒入りの菓子みたいに」


 私は二枚目をめくる。そこにはさらに露骨な一文があった。


『君が保管している旧年度の免税控えは、すでに無効と判断される可能性が高い。自分のためにも、提出は控えるべきだ』


 私はその文を指で叩いた。


「脅しが雑になってきたわね」


「効くと思っているのか」


「王都では効いたのでしょう。私はいつも家の体面を優先してきましたから」


 それが、もう終わっただけだ。


 私は返書用の紙を引き寄せた。アーベルが無言でインク壺を寄せてくる。


『航路局次官ギデオン・ブラント殿』


 書き出してから、私は一度だけ窓の外を見た。灰色の海。ここにはもう、屋敷の都合も義父母の視線もない。


『ノルトエルト港における監査は、王命に基づく公務です。私的な書簡で干渉しないでください。なお、旧年度控えは無効か否かを判断するためにも必要ですので、厳重に保管します』


 最後に一言だけ加える。


『ご心配には及びません。私は王都にいた時より、よく眠れています』


 封をした後、アーベルが珍しくはっきりと笑った。


「それは効くな」


「少しくらいは返してもいいでしょう」


 手紙を使者に託した帰り道、潮風が強くなった。嵐の前触れだと船員たちが騒いでいる。


 私は空を見上げる。嵐でも密輸でも、来るなら来ればいい。


 今度は逃げない。



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