表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lords of Elements  作者: カムイ
PR
2/4

02 模擬戦



一面、簡素なコンクリート製の部屋にトレーニングウェアを着た緑髪(りょくはつ)の青年が旋風を巻き起こしながら、部屋の中を跳ね回る。

自身の周りには風が渦巻いて、風の装備を纏った様に見える。


「ここに更に…!」



ズダンッ!とコンクリートの床に激しくぶつかり跳ね上がって、転がって暫くの所で止まった。

凄まじい勢いで衝突した事によって、むせ返る青年、風帝は荒い息を整えながら起き上がる。



「ゲホッ…ゲホッ…。はぁ…複合というのは難しいですねぇ…。ッ…!」


起き上がろうとした時に鋭い痺れと痛みに顔を歪める。

落ちた際にぶつけたのと複合魔術を使おうとして失敗した残存効果によって足を負傷したらしく、上手く立ち上がれず、大の字に寝転がる。

天井を見上げていると、気配を感じて入口の方に目を向ける。



「強化魔術を疎かにしすぎだ…。馬鹿が。」



入口近くの壁に寄りかかり、少し呆れた顔を浮かべた青年、氷界帝が佇んでいた。

少し歩いてきて近付くと、風帝の足を軽く触診する。


「問題ない。10分程度もすれば動ける様になるだろう…。水天導(すいてんどう)癒水ノ廻(ゆすいのめぐり)

差し入れだ。これでも飲め。」



コトンと横に水を置いて、タオルを無造作に顔の部分にパサっと投げかけて、横に座り込む。

腕を上げタオルを髪の位置までずらして上げると風帝が水に口を付けた。


「見ていたんですか?氷界帝。」


「あぁ、少し前からだがな。さっきやろうとしてたのは、風に雷の複合型だな?」


「はい、雷属性はただでさえ希少種と言われる属性の1つですし、持っているのに使わないのはどうなのかと思いまして…。風の速度に雷の速度を上乗せできないかと思ったんですけど…。」


「目の付け所としては悪くないが…練る練度が遅い。それにタイミングがバラバラだ。

ただでさえ副属性は元の属性と比べて練るのに時間がかかる。

更に、それを完成してる魔導術式に途中で組み込もうとしたら、混合時の不具合が発生する。」



━━副属性(ふくぞくせい)

魔導族1人が持つ魔力属性の質は1つが原則とされているが、後天的に属性が増える場合や

自身での鍛錬によって増やす事が可能とされている。

ただし、副属性が必ずしも自身が持つ属性と相性が良いとは限らず、どの属性が出るかもランダムなため不確定要素が強く、火属性を使える魔導師が相反する水属性が出現するのも珍しくはないのである。


しかし、副属性の性質上 本来持つ属性より圧倒的に質や威力で劣ってしまう為、単一強化に努める者も少なくないのが現実である。

本来単一の魔導術式にかけ合わせることで、2つの属性を持つ複合型(ふくごうがた)魔導術式となる。




「タイミングですか…。氷界帝ほど魔力質が見えていたり、感覚があれば出来るかもしれませんが、今だと厳しいかもしれませんねぇ…。」


足が大丈夫になったのか、ゆっくりと起き上がり大きく伸びをすると足を動かしながら苦笑を漏らす。

辺りに人はおらず、ゆっくりと時間が流れ 二人の静かな会話が途切れると寂しい静けさが訪れる。

そんな風帝に続く形で立ち上がると彼を見ながら、首をゴキリと鳴らしてゆっくりと口を開いた。


「お前、なぜ5帝に入ろうと思った?何を目指して5帝の地位に座ったんだ。」


いつもの様な不機嫌さもなく、かと言って怒ってる訳ではない。

付き合いの短い風帝自身でもわかる。 真剣さと純粋な疑問。

静かな疑問を投げかけた。


「5帝とは確かに国の象徴であり、国民からも絶対的な信頼を持つ謎の集団だ…。憧れや羨望もある事も知っている…。

だが、それは俺達【帝】という名前を背負った者の危険度を表している。

確実性もなければ、絶対は通常よりも有り得ない。生存率も低いだろう…。

負ければその場で引き摺り下ろされる世界だ。

先代の様にな…。それが5帝だ。 

そこら辺の下級・中級とも、なんなら王族特務の連中とも段違いに重くなりあらゆる秘匿事項が開示され、1国に等しい情報や力を持つ。

段違いに危険な仕事だ。…それでもお前は苦労してその椅子に、危険な椅子に座ったんだ。 それは何故だ…?」



ゆっくりと確かに、本人に伝える為に目を離さずに質問を投げつける。

当人の覚悟を図るかの様な、そんな重苦しい空気が辺りに漂う。

風帝の水を持つ手に微かに力が入る。



「その問にお答え出来る程、崇高な理念などではないかもしれませんが…。

純粋に守りたかったから、ですかね。

僕は今生きているこの世界が割と好きです。守りたいと素直に思いました。

守れる力が可能性があるのなら、その力の限りを尽くしたい思いました。

それが理由です。」


しばらくの沈黙、なんとなく緊張が続く空気の中、氷界帝は横にある観戦用の椅子に座る。


「守りたいなんて、生ぬるい覚悟を持つな。お前は既にもう帝だ。俺が認めるとか世界が認めるとかじゃない。先代が認めたのなら、お前はもう風属性最強の術者なんだ。

守りきると守ると誓えるだけの力をつけろ。

負けてからでは遅い。この世界では挫け…負ければそこにあるのは自身の死だ。

それで、お前技自体の複合の上級は幾つ使える。」



言い終える頃合に靴の紐を結び直し、立ち上がる。


「えっと…おおよそ、50前後かと思いますが…。」


困惑した面持ちの風帝が反射的に答えると、少し考え込む様子を見せる。

辺りを見渡し、手を前に広げる。周囲に誰も居ない事を魔力探知で確認した後に、改めて風帝に向き直る。


「風と雷、その複合術式の神級をその数、扱えるようにしろ。

俺も付き合ってやる。真剣な対帝の模擬戦は特殊な場所じゃなきゃ出来ないが、ただの手合わせであれば問題ない。

現時点での自分の立ち位置をしっかり把握しろ。自分の力の無さもな。

それが帝としての最初の1歩だ。」


軽く準備運動の様に肩を回したり、足を動かす氷界帝に対して、少し嬉しそうな笑顔を浮かべる風帝は勢いよく頷いた。


「は、はい!」



「じゃあ、かかって来い。何でもありだ。魔導、武器、魔具なんでも使え。」



そう言いながら部屋の中央ぐらいの場所に飛んで着地すると、ポケットから腕輪や指輪を数個取り出す。

それを順番に指や手首に取り付けていく。 一つ一つ精巧に作られた綺麗なシルバー。

戦闘時に付けるには少しばかり不釣合いな装飾品に風帝は首を傾げる。


「それは…。」


「魔道具の一種だ。まぁ、お前は見た事ないかもしれんがな。如何せんこんな物、日常でつける奴が居たとしたら、そいつは余程の大馬鹿者か俺と同等の魔力の持ち主だ。

対魔導用の封具、しかも俺用の特注の物だ。 元々着けていた物に更に6つ足す。 それが今のお前との距離だ。理解して戦え。

悔しかったら、俺からこれを外させてみろよ、風帝。」



ニヒルな笑みを浮かべると、ハッキリと感じ取れる膨大な魔力。

部屋が揺れてるのかと思う程の、肌がビリビリする程の魔力の塊。

世界最大値の魔力量の持ち主にして世界最大の一角を担う魔導師の痛烈な殺気にも似た圧力。


「どうした?かかって来ないのか…?」


手を前に出して指を何度か動かし、挑発する。

いつでも良いと言わんばかりに氷界帝を中心にジワジワと辺りが凍てつき始める。


(これで…6つ…?)



自身と年齢もさほど変わらない氷界帝との差にプレッシャーを感じるも、息を落ちつけ、薄く足元に風の渦を発生させる。

数秒にて風属性の術式構築を済ませると、その場から消えた。



「後ろ取りは卑怯かもしれませんが、すいません。」



風属性の特徴。 それは類稀なるスピードにある。

風を纏い、風に乗る事によって小さな挙動で一気に回り込む事が出来るのである。

それを利用し、瞬時に後部を陣取り後ろからの奇襲を仕掛ける。


「風縁式・刃風脚連(じんぷうきゃくれん)!」


風の刃を纏う蹴り足を風のスピードをそのままに、斜め上から氷界帝の頭へと振り下ろす。

風の唸りを上げながら後頭部へとその蹴り足が伸びる。


━━━━ヒットの瞬間。  

足にブヨンとした感触が伝わり衝撃を飲み込まれる。

驚き、一瞬にして数メートルの間隔を取り着地する。


「甘ぇんだよ。水流式・六層柔水(ろくそうじゅうすい)…。」


背面を広域カバーする様に展開される。

水系統魔法の中級魔導。 六種類の水の層によって織り成される柔らかい防御術の1つである。

表面から深くなる程、色はより濃く暗くなり本人に攻撃を当てるのは生半可な攻撃では難しい。


「そんな濃度の物は初めてお目に掛かりましたよ…。」


強気な物言いはするが内心冷や汗をかく風帝は対処を頭の中で巡らせる。

それ程までに異常とも言える魔力濃度と構築速度なのである。


通常の魔導師であれば、使えたとしても層を重ねる魔力においては練度に時間が掛かる。

故に、水属性を使う魔導師は後方での支援攻撃や防御術に特化した役目をパーティーでも行うのが事が基本とされている。

しかし、この氷界帝は自身から前線に出られるアタッカーとしての力も保有している。


「常々、キングクラスの術師相手にも言っているんだがな。練度は鍛錬でどうとでもなるんだよ。

魔力の密度は流石に魔力の底上げをしないとならないから、何ともは言えねぇが…。」



そこまで言うと両手を上げてそれぞれの手に氷と水を模した魔力を構築する。


「いいか、魔導の教科書に載ってるような心得の【じっくり練る】時間なんてのを敵がくれると思うなよ。

複合は更に緻密な物だが、それを感覚だけでやってのけろ。

複合タイプの術師の厄介な所は、練度に差があると発動すら難しいという点にある。

だったら話は簡単だろう。どちらの属性も同練度に練り上げろ。

手の感覚…密度、それを合わせる事を一瞬で。」


両手に掲げる水と氷。それが形を球体へを変え、中心で1個の球体へと合わさる。

答えを見せて実演するが、生半可な事ではないのは直ぐにわかる。

どちらかが少しでも狂えば、拒否反応の様に弾けてしまうからである。


入口のあたりで体格の良い男が、数枚の書類を持ってトレーニングルームの二人を眺めている。

その男性は髪を後ろに数度撫でる仕草をすると、腕を組み静かに見続けている。

火迅帝(かじんてい)は魔力の球体を眺める。


「ふむ、何やら様子を見に来たが…仲良くやっている様だな。

しかし、風魔導の一蹴…あれを瞬時構築で防ぐか。」


自身よりだいぶ年下の氷界帝に対して感嘆を漏らす。

自身ならどうやって躱すのだろうか、そんな事を考えている内に戦局が動いた。


神級(しんきゅう)水氷流(すいひょうりゅう)氷蓮花(ひょうれんか)…。」


1個に合わさった魔力球に更に魔力を注いで、呟くと数個に分裂し、その球体はパキパキと氷を伸ばして形を柔らかく変えていく。


氷で出来た睡蓮。 それが5個ほど空中に浮かんでクルクルとゆっくり回転している。


「一瞬で…説明しながら神級複合を……。」


目を見開いて驚く風帝を他所に、氷界帝は手をスッと下に降ろす動作をする。

氷の物体が1つ風帝に向かって飛びか合う。


(まぁ…当然であろうな。魔力の練度と密度…それには5帝の誰も氷界帝には勝てまい。

神級に消費する魔力の構築時間はコンマ数秒あれば事足りるであろう…。

小僧め、成長しおったなぁ。)


嬉しそうに眺める火迅帝は戦いから1mmも視線を外さない。

自身が双方と戦ったらどう対処するかななど、脳内でのシュミレーションを欠かさないためだ。

戦闘において、火迅帝は手を抜かないからである。

それを見る事も火迅帝にとっては貴重な戦闘訓練なのである。


氷の睡蓮の接地面から周囲に氷が広がっていく。


「さて、いつ気づくかな…。」


呟く氷界帝は手を弛める事なく、瞬時に移動する風帝を追い込む様に操作する事に集中する。


「クッ…避ける事が精一杯ですが…氷界帝の攻撃を交わす事が出来ている…?」


攻撃を躱す事に集中しすぎていたが、次第に疑問が浮かぶ。

なぜ、自分はこの攻撃を避けられているのかと。

いくら風属性だとはいえ、こんなに避け続けていられるはずがないと。

周囲を跳ね、駆け、飛び移動しながら周囲の状態に目を向けた時、それを理解した。


「花の数が増えている…?」


最初に5個程度浮かんでいた氷の睡蓮は接地面について消えていったはずなのに、今は視界のどこを見ても浮かんでいる程にその数を増やしていた。


「気づいたか…。氷蓮花は触れた場所を凍らせる。

そして、凍った場所の温度が下がる。それを繰り返す事によって氷を急速に増殖させる。」


喋りながらコンクリートの表面を着々と氷が覆っていく。


「逃げてるだけじゃあ…戦いになんねぇだろ。」


鋭い目付きで、浮遊状態の風帝を見る。

ゴッと鈍い音を響かせて、風帝の上空から氷の花が急落下し、当たり砕け散る。


「冷た…ッ!!」


一瞬にして右腕が全体的に凍りつく。

しかし、諦めた顔などはしておらず、足に魔力を送り構築をする。


「風雷式・雷神風牙(らいじんふうが)!!!」


雷の閃光を撒き散らしながら、風が牙の様な形を作り上げ足を振り下ろす。



……━━━━━━━━━━━━━━━━━



(5時間…。よく持った…こればっかりは褒めてやらねば可哀想だわなぁ。)


ずっと見続けていた、火迅帝が終幕を見届けると風帝にひとまず賛辞を送る。

氷が溶けて、床にビシャビシャになった風帝が突っ伏している。

最初の立ち位置からほぼ動いていない氷界帝は、封具を取り外しながら余裕の表情で風帝を見下ろす。


「これが、今のお前の限界だ。 これから1日1日無駄にするな。

お前が後悔しない様、確たる意思と意味を持て。」


「ハァ…ハァ…。はい…ありがとう、ござい…ました…。」


激しい息切れが収まる事無く、何とか絞りだした返事を聞くと静かに歩いて氷界帝はトレーニングルームを後にする。

通り過ぎざまに、観戦していた火迅帝に声をかけられた。


「稽古をつけてやっていたのだな。見かけによらず面倒見が良いな!氷界帝よ!ガハハ!」


バンバンと大きな手のひらが氷界帝の背中を二度ほど叩く。

一瞬痛そうな表情を見せつつ、面倒そうな表情になると、首を1度鳴らした。


「別に、そんなつもりはねぇよ…。1人がどれだけ国や兵団と同等の力を持っていても、個で闘う事があったとしても…。

俺達は5帝という1つの組織だ…。

仲間をみすみす死に戦に出すつもりはない。俺の周りの人間は誰ももう殺させねぇ…。

それだけだ。」


照れ隠しの様にも取れる、そんな言葉を紡いで再度歩き始める。

その背中を見ながら、火迅帝は微笑ましい様な嬉しそうな顔をして、呟いた。


「なんだ、ちゃんとお主にも仲間の自覚はあったのだな。」


夕日が窓辺から差し込む通路、去っていく氷界帝の背中を眺める火迅帝。

その顔はどことなく父親の様な、優しく安心した様な顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ