01 『5帝』
「あぁ…そうか。 この時のために、俺はこうなった訳だ。」
そう言うと男は普段浮かべぬ笑みを浮かべて、たった1本立てた指に、より一層の力を込めた。
どうなるかは知っての上だが男には関係なかったのだ。
それが自身のあり方なのだと、知っていたから。
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大きな音をけたたましく蹴り開ける音が響く。
ブルーのローブを羽織った男が苛立った様子で部屋内に現れる。
隙間から覗く口元が苛立ち故か、への字に歪んで不機嫌さをより一層 感じさせる。
「チッ…クソみてぇに血が付いた。想定外だ、畜生が…。」
「お帰りなさい。 随分と不機嫌ですが、そんな顔してるとまた隊内で引かれますよ?」
「うるせぇ、風帝。元々根付いた噂をどうにか出来るもんじゃねぇし、別にそれで構わん。」
緑色のローブを外した、優しい雰囲気の青年が立って紅茶を淹れている。
淹れたてなのかまだ暑そうに湯気が立ち上って、美味しそうな香りが部屋に立ち込めている。
後ろで1本に纏められた髪が苦笑と一緒に揺れる。
▼風帝
王族特務・独立部隊5帝の中で現在最も若手のメンバー。
風属性単一のギルドクラスSSSクラスの保有者。ローブ及びギルドカードのカラーはエメラルド。
13年振りに前代「風魂帝」を降して、風属性の頂点に位置する風帝を与えられし青年。
常に笑顔で爽やかな印象を持つ。
5帝内の入れ替わりは、当代を倒す事によって新たな帝が生まれる事になる。
壁が高く、何より当代の帝を相手に認めさせ超える事のハードルの高さ故に10年以上その座に座ったままの者も多くいる。
対して、不機嫌さが収まらない雰囲気の男性はフードを外して大仰に座り込む。
ボサっとした髪がフワフワと動きに応じて揺れる。
鋭い目つきに不機嫌そうな顔。
しかし、わざとやっている訳ではなく元よりそういう表情の顔つきなのだ。
大きい部屋なのだが、裏腹にガラス製のローテブル。3人程度が座れるぐらいの大きさのソファー。
閑散とした部屋の中には物があまりなく、人数もその二人。
「今日はグランドドラゴンの討伐依頼でしたよね?確かー…討伐数もそこまで多くないはず。
ランクで言えばA+~S程の任務と記憶してたんですけど…。」
「グランドドラゴンだけ?あの状況を見てそう言えるなら地面に転がれ、凍らせて踏み抜いてやる。」
尚も不機嫌極まれりな顔をしたまま、嫌味っぽく呟く。
「グランドドラゴン50体、依頼状はそうだったが…行ってみりゃあクイーンドラゴンも発生した危険区域だぞ。
ギルド認定ならSSSクラスの任務だ…。」
「それでも、貴方からしたら然したる支障もないでしょう?世界最高位の魔力量の持ち主であり、世界で唯一の属性を扱う、5帝最強格である副帝【氷界帝】さん。」
クスッと笑うと紅茶を氷界帝の前に置く。
言われた本人は不本意なのかフンと鼻を鳴らした。カップを鷲掴みにすると淹れたばかりの紅茶を飲み込む。
▼氷界帝
独立部隊5帝の副帝を務める男性。
氷属性複合のSSSクラス保有者。ローブ及びギルドカードのカラーはコバルトブルー。
戦闘能力の高さから恐怖を抱かれる事の方が多く、敵であれば誰も逃げられないとまで謳われる力を保持している。
この世に存在する魔導属性の中で水属性を派生させ、"新属性"の氷属性を世界で初めて発現させた魔導士として知られている。
世界で最も魔力量を持つ事でも知られ、水属性・氷属性の両属性を扱え複合魔導も使える。
世界最高の魔導師として名の挙がる1人である。
・━5帝━・
魔導師が普及した世界で人口の70%が魔導師として活動をする中で最高位の組織の名。
各所に存在するギルドに所属する所から始まり
Eランク~A+クラス=ギルド員
Sクラス=ギルド長
S+~SS+=王族特務機関(3部隊構成)
クラスビショップ
クラスクイーン
クラスキング
の順番で階級分けされている。
大体は、有能な者でも王宮の王直下の兵団【王族特務機関】の兵士として活躍する者がほとんどである。
しかしながら、その枠を超えて現在行使される属性の中で大きく上回る力を持つ者が与えられる総称。
各属性の中の最上級魔導師、それが【5帝】である。
しかしながらそこまで突出した才は珍しく、現状は5属性の人物しかおらずその人数で構成されている。
SSS=王族認定 独立機関 5帝
魔導の属性は主に10種が存在している。
火・水・土・風・闇・光・重・雷・音・無からなり、使い方や威力まで多岐に渡る。
また雷や音・無属性はそもそも使える魔導師が希であり報告例も少数のため、極一部にしか存在していない。
先の通り、世代交代が難しいため事もあり、現在は火属性・氷属性・地属性・風属性・闇属性の5帝で構成されている。
「あ、そろそろ帰ってくるかもしれませんね。火迅帝が。」
「チッ・・・。帰ってくる前にドアをロックしておけ。うるさい奴はお断りだとな。」
不機嫌な顔が更に忌々しげに変わり、眉間に皺がよる。風帝が言った事が大分、嫌だったのか部屋の中央にある多きな扉を指差してため息混じりに呟く。
「いやいや…流石にそれは如何な物かと思うんですが…。」
苦笑交じりに返す言葉は、恐らく本気で言っているのがわかっているからなのか、返しに困った様子で肩をすくめる。
「早くしろ。奴のことだ、噂話でもしよう物なら…
バァァン!
「ガッハッハッハッハ!ただいま戻った!!いやぁ、此度の遠征も まぁた有意義な物であった!!」
筋骨隆々、ワイルドさが滲む面持ちに大きな声。
朱色の短髪が立ち上がって、豪快に笑い声を上げながら、部屋にズンズンと入ってくる。
「……。だから言ったんだ…。うるさいぞ、火迅帝。 お前はもう少し、静かに入ってくるという事を覚えたらどうだ?」
数秒の無言、ため息と続き、ほら見たことかと言わんばかりの顔をして、片耳を塞ぎながら嫌そうに 声の主に向かって嫌味を交えた言葉を放つ。
▼火迅帝
火属性の基本魔導を改編する事を可能とした術式変更を習得した首帝。
火属性のSSSクラスの保有者。ローブ及びギルドカードのカラーはスカーレット。
パワーでは他に追尾いを許さず、また豪胆な性格としても広く知られる。
豪快であり、勇敢であり、温かい人物である。
「ん?あぁ、いやぁ!すまん!つい遠征というものは浮かれてしまっていかんな!ガッハハ!」
「だからうるせぇって言ってんだろ、クソジジイ。」
「お帰りなさい、火迅帝。」
相対的ににこやかに笑いながら迎える。
声の大きさが大きい事がデフォルトである事がわかっているので、差して気にしていない様子がうかがえる。
「うむ、出迎えご苦労であった! 此度の遠征、少しばかり熱くなってしまったわ!何せ、出先で魔族の準成体と遭遇してな!
これが、中々どうして手強いやつでなぁ…些か滾ってしまった。ガハハハ!」
「はは、お変りないようで何よりです。」
にこやかな談笑、遠征間の話題。
どこを取ってみても普通の会話であり、先輩後輩の間の話である事に違いはない。
刹那、一瞬の間に…━━ソファーその物が凍りついた━
その冷気を発する本人は畏怖を覚える程、目付きを更に鋭く変え 白い息を吐きつつ、口を開いた。
「…魔族の準成体…?何を悠長に談笑してやがる。平和が長すぎてボケたか?今なら大丈夫だと、タカでも括ってんのか…テメェは…。俺達の存在する価値、それが何か…忘れた訳じゃあ、ねぇよなぁ。」
殺気とも言える冷気。 冷たく重くのしかかるそれは、もはや人が放つ物とは思えぬ程に空間を覆い伝達する。
声のトーンが下がる度に、1度 また1度と温度が下がるかの様に床の表面が凍てつき広がりを続ける。
「す、すまん!落ち着け!氷界帝!!然と討伐は果たしてきたし、忘れた訳では断じてない!
しかし、新たに入帝した風帝にあまり無用な心配を与えてはと…!」
「はぁー…。……前代が選んだ風帝だ。そんなに脆いなら、先が思いやられるぞ、火迅帝。」
「む…。すまなんだ…。」
「魔族の生態系としてここ10年近くは上級個体は発見されていないんでしたよね…?確か…。」
疑問そうな顔をして風帝は首を傾げる。
そこに様々な疑問があるようだが、冷気にためらいを覚えながら口を開いた。
「今から約15年程前の話だ…。この大陸には多くの魔導師と多くの巨獣・聖獣の類、そしてもう1種"魔族"と呼ばれる種が存在していた。
そして、その現存する種が厄災と呼ばれる事にもなった事件とも言える大戦…。」
「魔族が起因となって起きた"魔族間戦争"ですよね。」
「お勉強はよくしているらしい。その通りだ。この数十年、魔族の下級にあたる幼体は発見・討伐を繰り返してはいる。
だが…15年間、魔族の幼体以上の生存は1度も確認されていない…。」
「確かにその通りなのだ…。おかしなものよなぁ。力はそこそこであったが、まだ1人で討伐出来るレベルのモノだったが…。」
顎に手を添えて、訝しげな顔を浮かべ歯切れ悪く言葉を詰まらせる。
『魔族間戦争』
15年ほど前に存在した、【魔皇】率いる成体魔族が暴動を起こし魔導族に対して戦争を仕掛けた事によって大陸全土を巻き込んだ大規模な戦争の総称である。
今ほど王族特務隊やギルドもしっかりとした制度はなく、勿論5帝も存在していなかった為に
双方に甚大な被害をもたらし、半年近くに渡って争った末に、キングクラスのギルド員が150からなる部隊を編成し、封印する事によって集結となった出来事である。
「はぁ…とにかく、俺は情報隊に報告をしてくる。休んでろ、パワージジィ。」
バタン!と強めに戸を閉めて部屋から退出する氷界帝を見送る二人は違う顔を浮かべて佇む。
息を着くと火迅帝はソファーの背もたれ部に軽く寄りかかる。
不思議そうな顔をする風帝が口を開く。
「氷界帝は何であんなに感情的に…?確かに滅んだはずの敵が出てきたとしたら、焦る気持ちもわかりますが…。
成体魔族が大量に存在しているとかでではない以上、大戦に発展する可能性は低いと思いますし、あの時よりも制度や部隊の質も上がっていますし、そこまでの驚異では…。」
「そうか…。入りたての風帝が知らんのも無理はない…。」
珍しく、そう言えるぐらいには見たことない程 真剣な顔をして赤いローブを外しながら言葉を続けた。
「あやつがあぁなるのは、この15年何より力を求め、復讐心に燃え、地獄の様な鍛錬をしてきた…。
奴はそれ程に魔族を恨み続けて来た。
それにあの戦争の被害者数及び戦死者数は1500万以上…当時の大陸の5/1にあたる人数が犠牲となっているのだ。」
あまり表情の動かない風帝が少し眉をひそめ、目を丸くする。
それほどまでに驚いているという事が伺える。
「そんなに犠牲者が…?しかし学院などで習う歴史学の中ではそんな数字は1度も出てきた事はなかったと記憶しているのですが…。」
「あまりの惨状だったものでな…当時の国王達ならびに大臣達の判断でその歴史は封じられたのだ。
だからこそ、国民は安心して、皆静かに安全に暮らしている。それを何より大事なのだ、風帝よ。」
ニッと少し歯を見せて笑う火迅帝は当時を思い出すかの様に少し寂しそうな顔をした。
それを風帝は少し無言で考えたあと、1人頷いた。
「なら、僕も鍛錬を欠かしません。力は付けておいて損にはなりませんし、新帝ですから。」
いつもと変わらない柔らかい笑顔を浮かべると、扉前で軽く一礼して部屋を退出する。
そのままトレーニングルームへと足を運んでいく。
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豪華な装飾が施された大扉から、青いローブを羽織った青年 氷界帝が扉から出てくる。
神妙な面持ちで窓の外を見上げながら、ため息を1つ落とした。
「早急に進めた方が良いかもしれねぇな…。チッ、面倒くさい事になりそうだ。」
瞳の奥には暗く澱んだ復讐心を燃やし、静かに呟くとローブを被り直して歩き始める。




