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かわいい毛玉をひろいました。妖精ですか?妖怪ですか?なお裏の顔がある模様  作者: 雨宮ルネ(吉田)


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 モンスター佐藤のひと悶着後。

 退社するまでくろは優香のひざの上で昼寝をしたり、興味津々でパソコンの画面を見たり、室内のあちこちを探検(?)したりして過ごした。とくに退屈はしなかったらしい。

 これだけ堂々と遊んでいるのに、誰も気が付かないという摩訶不思議。はじめはハラハラしていた優香だったが、そのうち慣れた。部屋から出ないように言い含めると放置していた。


 朝っぱらからモンスター佐藤の騒ぎがあったせいか、シガラキも今日は大人しかった。よかった。

 定時をちょっとすぎたあたりで、及川が席を立った。

「お先でーす」

 よし、今だ。優香も席を立って、及川に続いて部屋を出た。疲れた。今日は早く帰りたい。昨日の泥まみれの靴を拭かないと。ポーチも洗いたいし、買い物だってしたい。コンビニじゃなくてスーパーで。カップラーメンが底をついた。ヨーグルトもない。トイレットペーパーも買っておこう。缶チューハイも買っちゃおうかな。

 わくわく。

 歩き出した優香を、くろが追いかけてきて肩に飛び乗った。忠犬くろ笑。カバンを開けると、くろはぴょんと飛び込んだ。カバンの中から優香を見上げて、ニッと笑った。誰も気づかないようだけれど、念のため隠れてもらう。混雑した駅や電車の中で落ちたら危ないし。


 最寄り駅について改札を抜けたところで、優香はぎくりと足を止めた。ザビエル頭が少し先を歩いていく。

 あいつだ。あの頭は間違いない。

 どうする? 駅員さんに訴えるか。でも考えてみれば証拠は何もないのだ。防犯カメラに写っているのか? どうしたら確認してもらえるんだろう。

 っていうか、被害届は出す? ケガがあったら出してくださいねと駅員さんンは言ったが。この程度の打撲と擦り傷はケガに入るのか? 被害届なんて出せるんだろうか。警察も忙しいだろう。こんなかすり傷で手を煩わせては申し訳ないような気がする。診断書を貰いに病院に行くのだって、会社を休まないといけない。

 そこまでしなくてもいいような……。


 でも、やっぱりザビエルは憎たらしい。前方を行くテカッと光る頭を見ると、腹が立つ。知らず奥歯をごりっと噛みしめた。忘れていた金星丘が痛みだす。

 もしかして、今日もまた誰かを突き飛ばすんじゃないだろうな。よく見るとザビエルの前に小柄な女の子がいる。会社員にしてはカジュアルな服装だ。女子大生かもしれない。

 犠牲になったらかわいそう。でもどうしたらいい?

 自分が声を出す勇気はない。だって、まだ何もしていない。

「なにしているんですか⁉」

 と問いかけたところで

「なにもしていませんが」

 とかわされるのがオチだ。

 駅員さんに訴えるか? ところが今日は見当たらない。そりゃあ、駅員さんだって忙しかろう。

 どうしよう。


 そのときだ。カバンからくろがぴょーんっと飛び出した。

「あ、あれ?」

 飛び出した勢いのまま、ザビエルの真上まで移動するとピタッと止まった。そしてバレリーナのように高速スピンを始めた。

 あれは、今朝と同じヤツだ。

 くろがまた、何かを始めるのか?

 代わりにスカート捲り的な仕返ししてくれるのかな。優香はちょっとワクワクした。


 突然、視界からザビエルが消えた。

「きゃあっ!」

 前方で悲鳴が聞こえた。規則正しいスピードの人々の流れが、急に乱れた。優香はいきなり立ち止まった前の人に、ドスンとぶつかった。周囲ではそんな人たちで右往左往している。

「なんだ」

「どうしたんだ」

「痛い」

「危ないな」

 口々にそんなことを言っている。


「きゃーっ! 痴漢―! 助けてぇっ」

 再度、若い女性の悲鳴が響き渡った。

 あっという間に人だかりができた。優香もどれどれと人垣の隙間からのぞいて見た。そしたらなんと! 倒れているのは先ほどの女子大生風の女の子で、その上にザビエルがのしかかっていたのだ。

「げー」

 思わずそんな声が漏れた。


「こらっ! どかないか!」

 そう言ってザビエルの腕を掴んで引きはがそうとする男の人が数人。

「ちがうちがう! おれは転んだだけだっ!」

 ザビエルが必死に言い訳している。

「こんな転び方があるかっ!」

 と一蹴されてしまった。それもそう、女の子は仰向けに倒れ、ザビエルはその上にぴったり乗っかってるのだから。どこをどうしたら、そんな転び方になるのか不思議なこと極まりない。


 くろがすとんと優香の肩に座った。

 優香は横目でくろを見やった。

「あんただよね……」

 くろは朝と同じようにドヤ顔で優香を見つめ返した。

 ざまあみろ。優香は思った。これに懲りて、二度とぶつかりなんてするんじゃねえぞ。

 駅員さんも駆けつけて、ザビエルは連行されていった。女子大生も一緒について行く。雨降りじゃなくてよかったね。少なくとも泥まみれにはならなくて済んだ。

 警察沙汰になるんだろうか。

 みっともなく抵抗を続けるザビエルと、めそめそと泣いている女子大生を見送くりながら、優香はやっぱり「ざまあみろ」と思った。


 巻き込まれた女子大生は気の毒だけれど、みんなが同情して構ってくれてよかったじゃない。昨日わたしは舌打ちされて放置だったもの。駅員さんだって、わたしとは違って親身になっていたし。

 若いって得だね。泣けばかわいそうって思われる。わたしだって、昨日は泣きたかった。でも我慢した。我慢して泣かなかったら、損をした。

 社会ってそうだよね。

 わたしはいつだって損をする。


 優香は彼らに背を向けて、外へ歩き出した。

 駅を出てすぐのところにあるスーパーに寄って、いろいろと買い物をした。ちょっと気分がよかったので缶チューハイも買った。ハーゲンダッツも買った。ごほうびだ、ごほうび。誰も褒めてくれないから。優香はバニラ派。たまに浮気もするが、結局バニラが一番好き。

 ホクホクしながらマンションに向かった。


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