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かわいい毛玉をひろいました。妖精ですか?妖怪ですか?なお裏の顔がある模様  作者: 雨宮ルネ(吉田)


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 シガラキは朝が早い。たぶん一番に出社している。それがえらいと思っている節がある。だからなに? と優香は思う。朝一で出社するから効率が上がるわけじゃない。それは及川も言っている。それだけは気が合う。そういうのを一番嫌うのがゆとり世代。もっと嫌うZ世代。タイパコスパが最重要だから。

「おれらが若手のころはなぁ云々」

 よくそんな話を武勇伝のように聞かされるけれど、今どきアウトな話ばっかりだ。徹夜の仕事は当たり前とか、接待で倒れるまで飲んだとか。コンプラ違反しまくり。気づけよ。押し付けるなよ。これ以上ブラックにするな。


 席についてカバンを机の下に押し込む。

 ごそ。

 なんか音がした。夕べも聞いたこの音。いやな予感がする。そーっと机の下をのぞいて見た。

 ひょこ。

 カバンからくろが顔を出した。

「ひえっ⁉」

 思わず声が出た。

「どうしたの? 立花さん」

 隣から及川が聞いてきた。ペット(?)を連れてきたなんてバレるわけにはいかない。優香はあわてて体を起こした。

「な、なんでもありませーん」

 ほっぺたが引き攣りそうだ。及川は怪訝な顔をしている。

「そお?」

「はい」


 とにかくくろをなんとかしないと。カバンを持ち上げて、中にくろを押し込もうとしたらするんと逃げられた。

「あっ」

 及川がまたじとりと見る。どうしよう。焦った隙にくろはぴょんぴょんとデスクの上を飛び跳ねていった。追いかけようにも追いかけられない。

 ヤバいって……。玄関にいたはずなのに、いつの間にカバンの中へ?

 遠ざかっていくくろの背中(?)を優香は見つめるしかなかった。シガラキに見つかったらなんて言われるか。せめてうまく隠れてくれ。


 ところが、である。誰も何も言わない。というか、誰もくろに気づいていないみたいだ。

 あれー? 見えていないのかな?

 当のくろは、あちこち飛び跳ねながら宙返りまでしている。あんなに派手に動いていたら、気づかないはずがないのに。調子に乗ったくろが、とうとうシガラキの頭に飛び乗った。

 危ないぞ! そこはすべるから!

 優香は心の中で叫んだときは、もう遅かった。くろは見事にすてーんと足を滑らせて真っ逆さまに床に落ちてしまった。

 シガラキはなにかの気配を感じたのか、不思議そうに頭に手をやった。なにもないとわかると、すぐにパソコンの画面に視線を戻した。


 ヤバい。本当に滑るんだ、アレ。テッカテカだもんな(笑)。

 くろはしばらく、目を点にして呆然としていたが、やがてたしたしと歩いて優香のところへ戻ってきた。膝の上によじ登ると、よっぽどびっくりしたのか体育座りで動かなくなった。

「危ないでしょう? おうちでおとなしくしていればよかったのに」

 こそっとささやいたら、くろは涙目で見上げてきた。まあちょっと、かわいそうではある。


「おはよーございますぅ」

 甘ったれた声がした。件の新入社員の出社である。二十二才、新卒女子だ。はじめこそリクルートっぽいお堅い服装だったが、慣れるにしたがって合コンにでも行くようなフリフリブラウスなんぞを着てくるようになった。今日は肩がぱっくり割れて、むき出しになったゆるふわニットである。それはオフィスとしていかがなものか。そしていろんなことがルーズになってきた。

 今朝も始業時間ギリギリ。朝一で来る必要はないが、ギリギリもどうかと思う。しかも、昨日の今日でヘラヘラと。ふざけるなよモンスター新入社員。


「立花さん」

 有給の説明を押し付けられるのも嫌なので、顔をあげずにいたらシガラキに呼ばれた。渋々顔を上げると

「昨日のこと、説明してやって」

 と、やはり押し付けられた。はあ、と思わずため息を吐くと、となりで及川がにやりと笑った。ムカつく。


「あのー、佐藤さん」

 しかたなく優香は新入社員に話しかけた。モンスター佐藤は優香のところにやって来ると、ぴょこんっと小さくジャンプして止まった。そして小首をかしげた。だから、ここは合コンじゃない。

「なんですかぁ」

 なんだ、この間延びした返事は。こいつは返事の仕方も知らんのか。

「昨日の休みのことなんですけど」

「はい、有給って連絡しましたけど?」

 それがなにか? みたいに言ってくる。


「佐藤さんはまだ有給が付いていないので、欠勤になります」

「はあ⁉」

 え? なんでキレるの? こっちが「はあ?」なんだけど。さすがに優香もムッとした。

「入社から六か月たたないと有給はつきません。説明があったはずですけど」

「はあ? 聞いてないし」

 返事どころか口の効き方も知らないようだ。


「研修のとき、聞いてなかったんですか」

「そんな話、聞いてないもん! それに友だちは有給取ったって言ったし!」

 有給のシステムなんて、会社ごとに違うだろうが。友だちも新卒ならまだ有給はついてないと思うがね。ふつう六か月からだろ。あんたはまだ、二か月目!

「それに有休を使う時には事前に申請が必要です。許可が下りないと使えません」

 そもそもラインで連絡が間違っているんだ!


「ひどい! パワハラ!」

 おいこら、なにがパワハラだ。こっちは常識の説明をしているんだぞ! いいかげんにしろよ。優香は助けを求めるようにシガラキを見た。無視された。このクソオヤジが!


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