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かわいい毛玉をひろいました。妖精ですか?妖怪ですか?なお裏の顔がある模様  作者: 雨宮ルネ(吉田)


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「さて、ソレのことだけど」

 マッチョ氏が言った。見た目通りのなめらかなチーズケーキを口の中で蕩かしながら

「アレとかソレとか言わないでください。この子はくろちゃんです」

 と優香はささやかな反論をして、カバンを抱き寄せた。


 するとマッチョ氏もイケメン氏も「あちゃー」と頭を抱えてしまった。

 何か、気に入りませんでしたか? 他の名前がよかったですかね。たしかに「くろすけ」だから「くろ」と呼んでいるわけで、雑と言えば雑。

「名前、付けちゃったんだね」

 マッチョ氏が言った。

「いけませんかぁ?」

 つい口調がとげとげしくなる。


「名前をつけちゃったら、誓約したということなんだよ」

「成約?」

 車や家を買った覚えはないが。

「誓約。そいつはおそらく妖(あやかし)の一種なんだが、きみの僕(しもべ)あるいは使い魔として契約したってことだよ」

「契約……」

 やっぱり家とか車みたいな?

「きみにもそいつの面倒を見るとか責任を負うとかの義務もできるんだよ。そいつのやらかしはきみの責任ってことだな。一言でいえば一蓮托生だ」

「え? そんな大事(おおごと)ですか。たかが名前をつけただけなのに?」

 しかも、よくよく考えたわけじゃなく、便宜的につけただけなのに、そんなに重い責任が負わされるとか。え? 理不尽。

「名づけとはそういうものだよ。現代ではだいぶ意味合いが薄れているけどね」

 マッチョ氏は、やれやれという風に首を振った。

 現代では? よく意味がわからない。


「えーと。妖って妖怪?」

「河童とかろくろ首とはちょっと違うんだけどね」

 では、なんだろう。

「ちょっと出してごらんよ」

 言われて優香はカバンを開けた。くろはカバンの底で、身を隠すように丸くなっていた。外に出そうと手を触れたら、小刻みに震えていた。

「あれ? 怖いの? だいじょうぶよ、わたしがついてるから」

 宥めるように言ってカバンから出して手のひらに乗せても、やはりくろは手足を縮めて丸くなっていた。


 二人は、額を突き合わせるようにして、優香の手の上のくろをのぞき込んだ。それから「うーん」とうなった。

「っていうか、くろちゃんのこと見えるんですか? 会社じゃ誰も見えなかったのに」

「うん、見えるよ。いちおうその道の専門家だからね。まずは自己紹介をするか」

 マッチョ氏がそう言って、名刺を一枚優香の前に差し出した。


 超常現象研究所 所長 蒼前光明


「そうぜんこうめいと言います」

 さっきイケメン氏が「コウメイさん」と言っていたな。っていうか、全部音読みなんだ(笑)。


 続いてもう一枚。

 超常現象研究所 七ツ森リヨン


「ぼくだよ」

 イケメン氏が自分を指さした。

 リヨン。ハーフか? たしかに全体的に色素が薄めでハーフっぽいが。こういうのもキラキラネームというのだろうか。肩書がないから平所員。

「蒼前さんと七ツ森さん」

 声に出してみる。ななつもり。言いにくい。

「リヨンでいいよ。言いにくいだろう?」

 心を読まれたか! ちょっと焦った。

「えーっと、リヨンさん」

 彼はこっくりとうなずいた。

「きみは? きみの名前も教えてくれる?」

「……立花優香です」

 見ず知らずの人に名乗るなんて、ちょっとためらう。でもくろのこともあるし、しかたがない。

「そうか、優香ちゃんね」

 馴れ馴れしいな。できれば「立花」と呼んでほしいところだ。


 いやいや、そうじゃなくて。「超常現象研究所」ってなんだ。オカルト系ユーチューバーか? それともドッキリ? わたし、笑い者にされているのか?

 やっぱり、こんなところに来るんじゃなかった。

 優香はそっとくろを握りしめた。チーズケーキとコーヒーはとってもおいしいけれども。


「うん、まあ、そんな反応になるよね」

 蒼前が苦笑いした。となりではリヨンがさわやかな笑顔を向けてくる。

「胡散臭いのは重々承知だが、これは本当にある組織だよ。表には出てこないけどね」

 裏の組織⁉ 優香の背筋がピャッと伸びた。それもちょっとどうか、と思う。やっぱり帰ろうか。


「基本的には依頼を受けて、妖や霊の浄化や駆除にあたるのがおれたちの仕事だ」

「……へえ。あっ、じゃあコンビニのところにいる幽霊。あれも管轄ですか?」

「ああ、あれね。うんそうだね。ただ、どこからも浄化の依頼もないし、人間に危害を加える様子もない。だから放置している」

 放置か。かわいそうに。

「でも頼みがあるって言ってましたよ」

 優香がそう言ったら、蒼前はひどく驚いた。

「えっ? 会話できた?」

「……はい、話しかけられました」

「……そうか。そんなにか」

 なにか、悪いんですかね。

「そいつのせいだな」

 蒼前はくいっとあごでくろを指した。


「ソレは魂魄の欠片だが」

 こんぱくのかけら。

「魂魄っていうのは、死んだ人間の魂だな。ふつうは成仏する。たまに何かしらの強い思念があって成仏できないものがいる」

「幽霊ってことですか」

「少し違う。魂魄本体は幽霊というね。でもソレは本体から分離したものと言えばいいかな。きみに強い思いがあって、成仏できなかった。そしておそらくきみの元へ欠片を飛ばしたんだな。そいつが憑いていることによってきみは本来なら見えざるものが見えるようになったんだ」

 ……嘘だぁー。騙されないぞー。やっぱりオカルト系かと思いつつも、優香は「死んだ人間の魂」ということばに思い当たることがあった。


 あれしかないな。でも今さら?

 きみは真由なの?

 くろはまっすぐに優香を見上げている。

 喉の奥から苦さがこみあげてくる。せっかくのチーズケーキとコーヒーが台無しだ。


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