002 始めての奇襲(カチコミ)
(主人公補正がある以上、30人程度の兵隊なら簡単にノセる。ましてや、こちらは〝最弱〟のローニン。さて、困ったな……)
確かに転生したい、とは思っていたが、こんなナイトメアモードになるとは考えても居なかった。もっとこう、強力な力で敵を討ち倒し、女の子に黄色い歓声を送られるものだとばかり考えていたのだ。
「では、襲撃は中止ですか?」
「とりあえずは、ね。ただ、連中は厄介なのに変わりない。だから、もっと兵隊が集まったら叩く」
(まぁ……僕が叩くのは、ローニンのボスだけどね)
ローニンが弱い理由は、ボスの弱さにある。行動が保守的過ぎて、手遅れになったところでようやく動き始める始末なのだ。このソードフィッシュの舞台〝ウィング・シティ〟では、その保守性は単なる弱点にしかならない。
「承知しました。では、ボスにその旨を伝えます」
「いや、それはしなくて良い」
「なぜです?」
「ボスは、アスターたちを侮ってる。近いうちに、他の組織が潰してくれると思ってるだろうさ。だから、ここは兵隊を温存したってことで、不問になるはずだよ」
「なるほど。確かに、ボスは兵士がいなくなるのを極度に恐れていますからな」
「そういうこと。さて、〝私〟は外の空気を吸ってくる。ここ、煙たいからさ」
「ラークさん、タバコ嫌いですしね」
「そー。まぁ、このスモックだらけの街じゃ、まともな夜空も見られないだろうけどさ」
僕は幹部用の豪華な椅子から立ち上がり、事務所から外へ出る。ローニンは日本のヤクザのごとく、堂々と看板を掲げているため、一般市民はまず近づこうともしない。もっとも、敵対組織が接近してくる可能性は否めないが。
「ふー……」
それにしても、汚い街だ。空には公害レベルの煙が舞っていて、ビル群は劣化で今にも崩れ落ちそうで、空気はとてもまずい。自然らしい自然もなく、時折通る市民の目は、どことなく死んでいる。これが、全米最悪の街〝ウィング・シティ〟というわけか。
「あのままアスターと交戦したら、僕は間違いなくお陀仏。僕の腹心の〝イシハラ〟が聞く耳を持ってて助かった」
ラークという人物は、統率力と異能を買われてローニンの幹部になった。今や自分の事務所を持っていて、部下も30人程度いる。
能力は、有り体にいえば〝糸使い〟だ。この街の連中の6割ほどは、身体改造を受けて異能力を手にしている。
なら、法則操作だったり反射だったり、小学生が考えそうな強い能力でも手にすれば良いと思われるかもしれないが、いかんせん身体改造には〝正気度〟が関わってくる。あまりにも強大な能力を無理やりつけると、正気度を失ってしまう。それはすなわち、その者の死を意味するのだ。
「さて……どうやってボスを殺るか」
どうせゲームの世界だと思えば、人殺しにあまり抵抗感が湧かない。エンジェル・ソードフィッシュ──この世界を舞台にしたゲームをしていたとき、殺人や窃盗にいちいち罪悪感なんて感じていなかった。
それ故、邪魔なヤツは殺せば良い。惨殺することはない。スマートに殺してやれば良いのだ。
「ボスの〝タケダ〟は、巨大な本家に大量の護衛を用意してる。30人だけだと、あっという間に蜂の巣だね。うーむ……」
独り言をブツブツとボヤきながら、僕は今後の展望を考える。腕を組み、頭を傾げながら。
そうすれば、
「死ねェッ!!」
僕の頬に、銃弾がかすった。血が少し流れるが、軽症だ。
溜め息をついて、僕は右指を内側に曲げる。
そして、
「……ッ!?」
ヒットマンの白人は、金縛りにあったかのように動けなくなった。
「まぁ、ラークの身体だしね」
僕は、この姿になって始めて能力を使ったわけだが、案外冷静だった。ラークは、主人公をそれなりに苦しめるキャラでもあるからだ。




