001 最悪の異世界転生
あぁ、それにしても、つまらない人生だ。
それなりの高校を出て、いわゆるEラン大学を卒業。今は零細企業で働いていて、手取りは23万円。イマドキ、新入社員でも月給30万超えの連中もいるのに、だ。
転職等も考えたこともある。けれど、いかんせん新しい仕事をするために、勉強なんてしたくない。無気力な37歳。それが僕である。
(異世界転生、したいなぁ)
こんな人生を過ごしているものだから、来世はきっと虫かなにかだろう。もう人間でいることに疲れている僕には、案外ピッタリかもしれない。
けど、虫に転生したところで、自然淘汰されるだろうな、とも思ってしまう。
そんな僕の目標(?)は、〝人間〟として異世界転生することだ。中世風の世界で勇者にでもなって、悪の魔王を倒して崇められる。そういうしょうもない妄想をしながら、僕はキーボードを叩いていた。
そのとき、
びゅー……と、飛行機が向かってくる音が聞こえた。けたたましい音がどんどん近づいてくる。ついに幻聴が聞こえるようになったのか? ……いや、周りの反応を見る限り、どうやら僕の会社に飛行機が飛んできているらしい。
そして、
特に断末魔も聞こえず、辞世の句もなく、ただ淡々と、墜落した飛行機が会社のビルにぶつかり、僕は意識を失った。
*
「……はッ!?」
僕は、タバコ臭い場所で意識を取り戻す。周りには喫煙者が多数。この禁煙風潮はびこる時代に、良くもまぁ大量の吸い殻があるものだ。むしろ感心してしまう。
……いや、そういう問題じゃないか。肝心なのは、ここが死後の世界なのか。はたまた、異世界なのか、だ。
「ラークさん、目を覚まされたようですね。いきなり寝始めるものだから、びっくりしたんですよ」
いかにも反社会的勢力ですよ、という感じの、毒々しい刺青と隆々な筋肉、黒いTシャツを着た金髪の男が、僕に話しかけてきた。
「……?」
「どうされたんですか? あと30分後には、〝アスター〟って野郎を襲うのに」
アスター……どこかで聞いたことがあるような。僕は、この煙たい場所に飾られている絵に目をやる。
……分かった。ここ、ゲーム世界だ。それも、学生時代かなりやり込んだゲームのひとつでもある。
なぜ分かったって? やりこみ勢には簡単なヒントがあるためだ。
これは、〝エンジェル・ソードフィッシュ〟というゲームなのだけれど、そのゲーム内で主人公たちに惨殺される組織〝ローニン〟という組織の旗が掲げられている。それ故、(理解したくないが)分かってしまった。
〝エンジェル・ソードフィッシュ〟は、クライム・アクションのオープンワールドゲームで、主人公たちはローニンを含む3つの巨大犯罪組織をぶっ潰し、犯罪帝国を築き上げるという筋書きで構成されている。
そして、ここはローニンの事務所のひとつだ。日本刀が連なっている旗や、タバコに巻かれている者が皆、刀を持っていることから推測はつく。
しかも、ローニンはストーリーの構成上、最初に撃破される可能性が高い。構成員は大して強くない上に、ローニンの持っている〝シマ〟は莫大な利益があるためである。
では、そんな組織の女幹部〝ラーク〟に転生してしまった僕は、これからどうすれば良いのだろうか。
「アスター……か」
女性にしては、かなりハスキーな声で僕は唸る。
「なにか問題でも?」
「どれくらい兵隊がいるの? アスターの一味は、まだ大したことないかもしれないけれど、最近、〝ブラッドハウンズ〟の事務所が木端微塵になったでしょ?」
ローニンと主人公アスターが交戦するのは、まずブラッドハウンズという組織が襲われてからだ。さすがにそれくらいは覚えている。
「30人ほどですが」
「うーむ、足りないね。勢いのある連中を潰すには、その3倍は欲しいところだよ」
アスターたちを大真面目に倒したいのなら、過大でもなく100人近くの兵隊が必要。そうでもしないと、主人公は撃破できない。




