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第30話 友達の友達の、またその先へ

翌土曜日――


本来ならこの日の星華女子は、恒例の文化祭で賑わっているはずだった。


けれど、真壁先輩の衝撃的な死は、今朝の朝刊に大々的に載っていた。


午前10時過ぎ、刑事が2人、私を訪ねてきた。

年配の男性刑事と、若い女性刑事だった。


私が第一発見者ということで、発見時の状況を改めて詳しく訊きたいらしい。


昨日の朝にも、別の刑事からいろいろ訊かれたと思う。

けれど、動揺がひどくて、どんなことを喋ったのかさえよく覚えていない。


警察側もそれを踏まえたうえで、改めて私に会いに来たのだろう。


講堂の舞台に敷き詰められた、赤い彼岸花の造花。


その中央には、真壁先輩の遺体と、彼女が描いた絵が飾られていた。


思い出してみても、それは実に異様な光景だった。


私は当時の状況を話しながら、胸が締めつけられるのを感じた。


刑事たちから聞いた話もあった。


刑事たちの話からすると、真壁先輩が亡くなったのは、木曜日の午後6時半から7時半の間らしい。


私たち他の部員が講堂を後にして、1時間もしないうちに殺されたという計算になる。


その頃、私は同級生の河野真紀、部長の岡崎多香子先輩たちと、ちょうど同じスクールバスに乗っていた。

だから私には、この事件に関する“アリバイ”が成立するらしい。


けれど、そこまで調べられていたのかと思うと、あまり気分のいいものではなかった。


事情聴取が終わりに近づいた頃、若い女性刑事が質問してきた。


「真壁さんの周辺で、怪しい人物とかに心当たりはありませんか」


あるか、と問われれば――ある。


用務員の御厨泰造さんだ。


あの時の彼の様子は、少しおかしかった。

ただ、普段からどこか変わった様子の人ではあった。


それだけで、彼が容疑者扱いされるのも気の毒に感じてしまった。


それに御厨さんのことなら、私がこの場で言わなくても、きっと別の誰かが言うだろう。


警察は私以外にも、いろいろな人たちから話を聞くはずだ。


自分の証言がきっかけで、御厨さんが疑われる。

そう考えると、どうしても口にできなかった。


だから私は、「ありません」と答えた。


女性刑事は、私の顔を少しだけ見つめた。

その視線に、胸の奥がざらついた。


*


警察が帰ってからしばらくすると、真紀から電話があった。


話したいことがあるので、いつもの喫茶店へ来てくれないかという内容だった。


広島市安芸区にあるその喫茶店は、私の自宅から徒歩5分ほどの場所にある。


中学時代、真紀や他のクラスメートたちと、学校や塾の帰りによく立ち寄っていた店だ。

ちょっとした溜まり場だった。


事件のせいで文化祭が中止になったから、午後からは気晴らしに市の中心街まで出かけてみようかと思っていた。


学校側からは、不要な外出を避けるようにという連絡が出ていた。

けれど家の中にじっとしていると、かえって憂鬱な気分に襲われそうだった。


真紀からの誘いは、ちょうど都合がよかった。


私は服を着替えて、自宅を出た。


喫茶店「フェアリー」には、もう真紀の姿があった。


いつもの席に陣取り、フェアリーでいちばん人気の“コーヒーゼリーとバニラアイスのパフェ”を頬張っていた。


真紀は私の姿を認めると、大きく右腕を上げて手を振った。


私は真紀とテーブルを挟んで向かい側の席に座ると、真紀と同じ“コーヒーゼリーとバニラアイスのパフェ”を注文した。


「いったい、どうしたの」


私は真紀に、自分を呼び出した理由を尋ねた。


真紀はグラスから小さなコーヒーゼリーの塊を口に入れると、少し苦かったのか、渋い表情になった。


「……あ、ご、ごめん」


真紀はすぐに表情を戻して、口を開いた。


「中学のバスケ部の友達に“光山(みつやま)”って子がいるんだけど、千晶は知ってるかな」


「何となく、顔は知ってる。でも、同じクラスになったことはないし、喋ったこともないかな。で、その光山さんがどうかしたの」


「その光山さんに、小学校の時に京都へ転校した友達がいるらしくて、その子とは今でも文通したり電話したりする仲らしいの。それで、その子から昨夜いきなり電話がかかってきたらしいんだよ」


「……へえ、そうなんだ」


私はまだ、話の内容が読めなかった。


そう口にした直後、“コーヒーゼリーとバニラアイスのパフェ”がテーブルに運ばれてきた。


私は、たくさんの小さなコーヒーゼリーの塊の上に乗ったバニラアイスをスプーンですくい、口に入れた。


真紀はそんな私の様子を見つめながら、再び口を開いた。


「その京都へ転校した友達の親戚に、大学生の人がいるらしいの。その人のおばあちゃんが、私に会いたがってるんだって」


私は口に入れたバニラアイスを、思わずそのまま飲み込んだ。

喉の奥が、痺れるように冷えた。


「えっ? な、何? どういうこと?」


私は上ずった声を出した。


「どうもね……その大学生は京都に住んでいるらしいんだけど、その大学生のおばあちゃんが、どうしても“星華女子学院”の生徒に会いたがってるらしいんだ。それで光山さんに相談したらしくて、私に辿り着いちゃったってわけ」


「でもさ……どういうことなんだろ? “星華女子学院”の生徒に会いたいって……」


「そのおばあさんね、お孫さんの話では、昨日の夕方に真壁先輩の事件がニュースで流れたでしょ? そしたら激しく動揺して、うちの学校の生徒に会いたいって言ってるらしいの。それにね――」


真紀は一拍置いた。


「そのおばあさん……“秀麗女学院”の出身らしいのよ」


真紀の言葉が耳に入った瞬間、私の背筋が急に伸びた。


“秀麗女学院”の出身。


もしかすると、学校に纏わる古い出来事を直接知っている人物かもしれない。


それが、今回の真壁先輩の事件と何か関係があるのではないか。


そのおばあさんが、真壁先輩の事件が報道された後に激しく動揺したということは、そういうことではないのか。


「明日の午後2時に、広島駅近くのHホテルのロビーで、そのおばあさんと大学生のお孫さんに会うことになったんだよ。私1人じゃ心細いからさ……千晶も一緒に行ってくれないかな」


私は「いいよ」と即答した。


心の中で、変な好奇心が騒ぎ始めていた。


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