妖精の国
翌日、図書館へ本を返しに行った。
「長らくお借りしていました、もうしわけございません。」
クラウスの言葉に職員のお姉さんは頬をあからめながら微笑んだ。
「いえいえ、返却ありがとうございました。ちゃんと返却いただいたので大丈夫ですよ。次からは延滞しないようにお気を付けくださいね。」
さすがの対応。
2週間も延滞したのに怒られないなんて…
「次、いつこれるかわからないので、借りない方がいいですよね?」
少しがっかりしたようにクラウスが言うので。
「別に返しに来たらいいじゃん?2週間あるんだから、1年くらいは借りとけるし、その間にちゃんと返しにきたらいいじゃん。ばれないなら俺のカードで借りればいいし。」
「良いのですか?」
嬉しそうに言うクラウスに向こうで本って借りれないのかな?
と思ったが、クラウスがかりたいのはホームズシリーズ…さすがに向こうにそれはないよなっと納得。
この図書館では一度に10冊までかりられるそうで、10冊のホームズシリーズを借り、ご満悦で帰路についた。
「カー帰りますよ。」
「我はまだ…」
クラウスは容赦なく、カーエルの首根っこを押さえ魔法陣に入る。
「カーエル様お早いお戻りを…」
しのぶ君が半泣きになりながら見送った。
赤川は…いない?
「まてまてまて」
慌ててかけてきた。
「これ、一応餞別な。みんなから預かってたから。」
そう言って花やらいろいろ俺に押し付けた。
「あ、ありがと。またくるよ。じゃぁな。」
俺たちが魔法陣をくぐる。
ついたところはあの教会だった。
こっちはここにつながるんだ。
「おかえりなさい。」
ティが待ちかまえていた。
ぎゅうっと抱きしめられる。
「た、ただいま。」
俺にとっては1日、ティにとっては1か月。
温度差がすごい。
抱きしめられてすりすりされて、恥ずかしい…みんなが見てるのに…
「ティ、いつからここにいるのですか。お仕事はちゃんと進んでいますか?」
クラウスの怖い声にも反応しない。
ただ、俺を膝に抱いてすりすりしている。
ちゃんと聞けよ。
ほら、クラウスが怒り出しそうだ。
「ティ、大歓迎は俺もすっごくうれしいんだけど、ほら。クラウスが…」
「お仕事の進捗状況は?」
「ちゃんとやってました。ひろむの庭もちゃんとみてましたよ。」
ほら ほめてっと目が言ってる。
「うん、ありがとな。」
礼を言われてワンコのように嬉しそうだ…
ティは仕事はしたと言っていたが、クラウスにとっては滞っていたと同じだと説教をくらい、ティもクラウスも執務室にお籠りになった。
「ひろむ、少し散歩でもしませんか?」
さてはお籠りにあきて逃げ出してきたな。
久しぶりに二人きりで散歩をした。
果樹園はたわわに実り、畑は大量の作物で彩られていた。
「ここは生気が濃くて息をするのも楽です。」
嬉しそうにしているティを見るのは俺も嬉しい。
「ティはなんで俺を選んだんだ?」
先日、メイドさんに命を狙われた時、なんで男のお前が…と言われたの
別に気にしてるわけじゃないけど、たしかになんで俺なんだろうとは思った。
「あなたが寂しがって泣くから…」
「え…そういう理由…?」
「私を必要としてくれたでしょ。私が守らなければと思ったのですよ。」
「そ、そなんだ…」
なんか恥ずかしい。大の大人が寂しいって泣くなんて…
しかもそれを見て守りたくなるとか…俺、大人としても男としても恥ずかしすぎるだろう…
「ティ、見つけましたよ。」
クラウスが上から降ってきた。
そしてティの首根っこを押さえ連れ去ってしまった。
俺はやることもなく、暇なので庭の手入れっと。
野菜たち、ただいま。
庭は盛況だった。妖精や精霊たちが優雅に漂っている。
俺は果物を絞り、色々なジュースを作り、ふるまった。
蜂蜜ジュースも好評だった。
「ひろむ、こちらへ。」
妖精王の後ろに控えていた片方の従者がやってきて、俺を扉に押し込んだ。
「なにすんだよ。」
俺の抗議はどこ吹く風、妖精の国へと連れていかれてしまった。
「あんた、王様と一緒に来てた人だよね。俺になんの用?なんで…」
「うるさい、人間風情が私に許可なく発言するな。」
えらい言われよう…これが本性か。
和平条約むすんだんじゃないのかよ。
良いのか?こんな乱暴して。
いや、乱暴はまだされてないが…
「お前はここで畑を作るんだ。」
「なんで。帰せよ。」
「うるさい、ここで畑を作るなら居させてやってもよい、いやだと言うなら鎖で縛り、強制労働をさせるだけだ。」
えらく乱暴なやつだな。
いきなり連れてきといて、暴君にもほどがある。
王様の命令なのかな? あんなにやさしそうな王様だったのに…
ばたばたばた…
「何事ですか、騒がしい。」
「ひろむ様が…」
「ひろむがどうかしたのですか?」
「ひろむ様が妖精族にさらわれました。」
「…クラウス…ひろむを迎えにいきますよ…」
「御意。 誰かカーとルゥを呼んできてください。」
2人はひろむの庭の妖精国への扉の前に立っていた。
「おぅ、妖精とまた戦争だって?」
「我が必要だな。一応和平中であろ? 手加減は?」
「いりません、殲滅です。あの羽虫ども、良い気になって…」
「ク、クラウス…?」
「みなさん、いきますよ。」
クラウスを先頭に4人は扉をくぐって行った。
ひろむの庭に遊びに来ていた妖精族たちは騒然となった。
「妖精王様にご報告を…」
「今回は死人がでるかもな。」
「誰か知らんが一体何をしたんだ。」
「死神天使ズが向かったと、急いで。」
「放せって、きっとみんなが来たら大変なことになるから、さっさとこの鎖はずせよ。」
俺が暴れるたびに首や手首につけられた鎖がちゃらちゃらと音を立てる。
逃げられないようにか足につけられた鎖には罪人のように錘もつけられていた。
「なんでこんなことするんだよ。別に俺の庭は解放してあるんだから、好きに遊びに来ればいいだろ。」
「それではたらんのだ、だからお前にはここに果樹園や畑を作らせねばならない。」
「果樹園も畑もあるじゃないか。」
「ここにあるものは生気がたらん。お前の作る畑や果樹園はあんなに生気に満ちているのに。なにか秘策があるのだろう。それをここで作らせてやろうと言っているのだ。ありがたく開拓せよ。」
なんでだ? 俺、そんな変わった作り方はしてないぞ?
大体生気なんて俺の目にはみえないんだし、多いか少ないかなんんてわかんない。
生気を多くしようと思ってあの畑作ったわけでもないし。
そうか、だから天使族のみんなは休憩室あるのに、ちょくちょく俺の畑まできて休憩とってるのか。
休憩とるにはちょっと離れてるし、水とかまいた後だと泥汚れとかついちゃうからって言ってもくるから、なにか好きな果物とかとって食べてるのかと思ってたけど、生気の補充に来てたのか…そういや、ティもそんなこと言ってたな。。
「お前、何をしている。」
前にけがしてた従者の人。
一番最初にジュースをふるまった人だ。
「ひろむ殿。なぜここに。」
「お前には関係ない、わが王の命だ。」
「そんな命令聞いてないぞ。」
おや、仲間割れ? ってことはもしかして、これってこいつの独断?
でも王の命って…
聞いてないのと命令とどっちが正しい?
すると表の方から騒がしいのがやってきた。
「ひろむ、どこですか?」
「ひろむ。」
「クラウス、ティ。カーエルにベルもきてくれたのか?」
4人が入ってきた。
駆け寄ろうとしたが鎖に阻まれた。
「こいつらをひっとらえろ。」
俺を拉致った奴が叫んだ。
「カー、ルゥ。出番です。」
「おう」
カーエルは魔法的なもの、魔法なのかな?
ベルは剣をふるい、敵をなぎ倒していた。
これって出来たら3人の方が締まったな。
「やっておしまいなさい」とかって。
んで、適度に敵が間引かれたら…
「静まれ、静まれ。この紋所が目にはいらぬかぁ」っと。
「静まらんか。」おっ、これこれ。
あれ?でも妖精の方?王様登場…真打か?
「これはどういうことだ説明せい。」
「はっ。先日の会談からお帰りの際、この人間がおればとおっしゃったので…捕まえてまいりました。」
「天使族の白き巫女をか…」
「…このような下賤の者など、白き巫女などと…どうせ生気の森を作らせるためだけの囲うためだけの対外的な方便かと。」
「この愚か者、これで和平が潰れたらどうするつもりだ。私のうかつな発言はすまなかったとは思うが。そんな事を言うた記憶も定かではないが、このものがそういうなら無意識に口走ったのだろう。許せ。」
「ほう…ゆるせと…それで許されるとお思いですか?」
ク、クラウスが怖い…
なんか、青白い湯気が立ってるのがみえるのですが…
「拉致までは許せてもこんな、こんな罪人のような枷までつけて…」
じゃらっと俺についた鎖をティが引きちぎった。
おっとこちらもかなり怒っていらっしゃる?
ティの力技 初めて見た。
そして、やっぱり抱きしめられた。
しかも今回鎖を引きちぎった勢いのままなので、痛い…
骨が折れるぅ…
「ティ、その辺で…ひろむが潰れてます。」
「あぁ、ひろむすみません。 ひろむが攫われたと言われて気が気でなかったので…」
「うん、ありがとう。助けに来てくれて。」
俺もティを抱きしめた。
「あっちは置いといて、さぁ、妖精族の王よ、この始末どうつけていただけるのですか? 天使族の属国にでもなりますか? それともここで皆殺しされますか?」
カーエルとベルが楽しそうに剣を構えなおす。
「お待ちください。」
あの、けがの従者が割って入った。
「どなたですか?」
クラウスの冷たい声にみんなが震える。
「私はフェリノアと申します。私はずっと王のおそばに仕えておりましたが、会談から戻られてから王はそのような言葉を発したりはされておりません。この者の勘違いなのでは…」
「勘違いであったにせよ、このような事態を招いたのはそちら。それ相応の誠意は必要ではありませんか?」
「そうかもしれませんが、これは先日の襲撃事件や、そちらのメイド殿の乱心事件とどこかにていませんか? 言った覚えのないものを聞いた気になった。我らが敵対するように仕組まれていると…」
ふむとクラウスが無意識なのかパイプを持つようなしぐさを見せる。
こんな時にホームズ様ですか…
「そう…ですね…では今回の事は一時保留にしましょう。とりあえず帰ります。誰かの企みだとしても謝罪は必要ですよね。今は調査を優先させますが。 ではひろむはかえしてもらいますね。そちらの方も良いですね。」
にらみつけられた従者の人は震えながらうなずいた。
フェリノアは丁寧にお辞儀をし、俺たちを見送ってくれた。
怒涛の救出劇…
俺、手錠とか鎖とか初めてつけられた。
こんなことでテンション上がってる場合ではないのだが、ファンタジーも結構殺伐としてる…
ちなみにファンタジー定番の冒険者はここにはいない。
戦争で忙しいので冒険している暇はないらしい。
でもまぁ和平も結んだし、そのうち冒険したいって人もでてくるんじゃないかな?ってか出てきてほしい。
俺は冒険者にもなりたい。




