焚き火と傭兵1
寝床の場所を決め、荷物を下ろした誠治は伸びをした。
木漏れ日に目を細め、手早く荷物を解いていく。事前に用意していた薪の束を脇に置き、テントの設営を始めた。
今日はいつもと違うキャンプ場だ。
久しぶりに県を跨いで遠出をした。
慣れない場所で自分の荷物を広げていくと、新しく自分の陣地を手に入れたようでワクワクした。
誠治はふと、ペグを打つ手が止まった。
見知らぬ場所だった。
あの日のことを思い出してしまう。夢のようなあの出来事を。
異世界でキャンプをして、迷子の子どもと出会った翌日、誠治は同じキャンプ場を訪れたが、あの不思議な森へたどり着くことはなかった。
(あの2人はどうなったのだろうか。無事に村にたどり着けたのだろうか。)
心にずっと、しこりのように残っている。
(でも、もう会うことはないのかもしれない。)
あれから2度ほど、子どもの好きそうなレシピを考えながら週末にキャンプ場を訪れたが、何も起きることはなかった。
(異世界転移が起きないのは、自分ではどうしようもないよな……)
誠治はもう気持ちを切り替えることにした。
何かの気まぐれで、またいつか——予期しないときに異世界へ行けることがあるのかもしれない。
テントの四隅のペグを打ち終わり、ロープをピンッと張り、誠治は立ち上がった。
誠治のキャンプの楽しみ方は焚き火と普段家でできないものを作ることだった。
出先のちょっとした個人経営店に入るのも楽しみの一つだ。
客として訪れた時、自分という異物が常連に混じって受け入れてくれるのか、少しスリリングに感じるのだ。
世間話にちょっと話しかけてくれるのも脳に刺激を与えてくれる気がした。
今回は道すがら小道に面した、少し色あせた店構えの精肉店を訪れた。
見つからなければ諦めようと思っていたそれが、ガラスケースの中に鎮座していた。
(今日は運が良かったな)
近所のスーパーでは、まず見かけない代物だ。
(先に下味をつけておくか。)
誠治はクーラーボックスからビニール袋を取り出した。
中には、カットされていないでっぷりとした丸鶏が、袋に張り付くように入っている。
袋の口をほどき、ハーブソルトとガーリックパウダー、それと黒コショウをすり込み、また袋を縛り、クーラーボックスにしまい込んだ。
あたりの石を集め、積み上げながら、クーラーボックスをちらりと見ては、そわそわした。
今日は平原のキャンプ場だ。
とても見晴らしがよく、空気も澄んでいる。
遮るものがないので、火が流されないように風向きを考えながら、石で簡易的な風除けを作った。これなら上に網も乗せられるだろう。
誠治はナタを振り上げ、薪を割り、薪の一部は小枝になるくらいまで割っていった。
満足のいくまで薪を割り、一度体を起こして伸びをした。
昼過ぎだというのに、鼻の奥に吸い込んだ空気が冷たい。
ナタをしまいつつ、誠治はリュックから光実を取り出して眺めた。
木の実だというのに、一向に腐る気配もない。
夢ではなかったと証明してくれる、唯一のものだ。
これを握るだけで、体の芯からポカポカする。
それに淡く光るガラスのような見た目がとても気に入っていた。
しばらく見つめたあと、なくさないように誠治はまたリュックにそっとしまい込んだ。
(火起こしするか)
割った薪から出た木屑や木の破片をかき集め、積み重ねた石の内側にこんもりまとめた。
誠治は松ぼっくりに火をつけ、木の欠片に火がつくのを眺めた。
(小さな火が懸命に成長する姿はいつ見ても応援したくなる)
——パチパチ……——
少しずつ小枝を混ぜ、火を大きくしていく。
(育てすぎないように、かき消えないように)
——ふうぅぅぅー……——
火吹き棒でやさしく火の元に空気を送り込んだ。
——ボォゥゥッ……ユラユラ——
少しずつ太い薪にも火が移っていくのが分かる。
——パチパチ——
光実もいいが、この暖かさはやはり格別だ。
自分が育てあげたという満足感もある。
鼻に入ってくる空気はまだ冷たいが、それが気にならないほど、体が暖かくなっていく。
——ユラユラ——
……
………
(……いけない、またぼんやりしてしまった。今日は時間がかかるんだった。)
料理に必要なものを出そうとリュックを開けるが、誠治はあることに気が付いた。
(アルミホイルがない……!)
どうするか……。
誠治は気持ちを落ち着かせようと、焚き火の前に腰を下ろした。
(作りたくてわざわざ買ったのに、あの丸鶏をカットするのはもったいなさすぎる。)
誠治は両手で顔を覆い、深いため息をついた。
(何も覆わず焼いたりしたら、生焼けの丸焦げになる可能性が……)
——パチパチ、ユラユラ——
火は小気味よく揺れている。
(カットして焼くとしても、飲みもしないビールはどうすれば……)
——ユラユラ——ユラユラ——
(いっそ煮込みに使うか、……だが……)
「うぅん……あー——」
——ユラユラ………パチッ!
誠治が悩みすぎてうなり声をあげた。
その瞬間——炎が大きく爆ぜた。
「うわー!」
男たちの叫び声が、突然誠治の耳に突き刺さった。
「な、なんだ、お前!一体どこから湧いて出た!?」




