焚き火跡と迷子2
「あなたたち!一体何やっていたの!!あれだけ道から外れないようにと言ったのに!起伏が激しいから、迷子になるって何度も言ったでしょう!もう2度と会えないかと思ったのよ!」
母親のカティは2人を見るなり、大声で説教を始めたが、次第に声が震え、大泣きしながら2人をぎゅうっと抱きしめた。
「ごめんなさい…」
ケティはかろうじて謝罪の言葉を口にできたが、コティはしゃくりあげて、言葉にならなかった。
「お騒がせしました。村長、皆さん、朝早くから集まっていただき、申し訳ありませんでした」
父親のオッティは、捜索に集まってもらっていた人々に頭を下げた。
「いやなに、とにかく見つかって良かったよ」
村長がなだめる。ちょうど手分けをして探しに出るところだったらしい。
村人の一人が言った。
「それにしても、2人だけでよく無事に戻って来られたね」
「光実を探しに出かけたのは、東の小道だったはずなのに…南の街道から帰ってくるなんて…夜は、さぞ怖かったでしょうに」
カティはコティの涙をぬぐった。
「助けてくれた人がいたんだ。その人も迷子だったんだけど、ご馳走してくれて……一緒に夜を過ごしたんだ。それから朝起きて、明るくなってから南の道のすぐそばで寝ていたことに気がついたんだ」
その言葉に大人たちは動揺した。
「迷子の人?こんな辺鄙なところで?どんな人だったんだ?」
オッティは訝しんだ。
「あのね、セージおじさん、優しい人だったよ。いっぱいご馳走を食べさせてくれたの」
コティの話にカティはうんうんと頷き、オッティはケティを見た。
「その人、自分でもどうしてここにいるのか分からないって言っていたんだ。悪い人じゃなかったよ……たぶん。本当に良くしてくれたんだ。でも、朝起きたら、いなくなっていたんだ。」
「…そうか」
オッティはケティの肩を優しく叩いた。
「村長、もしかしたら人さらいの可能性もありますし、光実の採取はやはり子どもたちだけでは危険かと」
「うぅむ…、致し方なし…か。しかしそうなると人手が足りなくなるし、今年の収穫祭は厳しいものになるな…」
収穫祭は村の観光資源でもあり、収入源でもある。光実は希少性が高く、取引されることもある。実の取り方は村の者しか知らない。収穫祭が近づくと、子どもを狙った人さらいが現れることがあった。
「そうだ!光実を見つけたんだ!」
「それもたくさん!」
カティは食事の用意のために家に戻った。
捜索に集まってくれた人たちを連れ、2人はかごを置いた道へ戻った。
「ここ、この辺から出てきたんだ」
ケティはかごを持ち、茂みに入った。
「街道沿いなら村以外の人間がすぐに見つけそうなものだが…」
2人のあとに続き、大人たちも踏み入った。
少しばかり歩いたところで、ざわめきが起きた。
「ほ、本当に光実だ」
「一つの木にこんなに実がついて…こんなに輝く実、見たことがないぞ…」
「それに、あっちの木も同じように実をつけているぞ…」
ひらけた場所をぐるりと囲むように、実が輝いていた。
「ここで一晩過ごしたのか?」
「うん、ほら、ここでセージおじさんが焚き火してたんだ」
「焚き火?…ここで?」
中心の灰を見て、大人たちのギョッとした声が上がった。
2人がキョトンとしていると、
「光実はな、火に弱いんだ。近くで焚き火なんてしたら、すぐに燃えてしまうんだ。ここで焚き火をしていたなら、ここら一帯は焼け野原になっていたはずだ」
と、オッティは話した。
光実は丈夫な実であるが、火に弱い。光を吸収するので、太陽や月や星の光を吸収して輝くのだ。その価値を知っているものならば、その山で呑気に焚き火をするはずがない。本当に彷徨っている人だったのだろうか。
「とにかく、ここは街道から近い。今日中に収穫してほうがよさそうだ。これだけの量を取るなら、人手がいるな。誰か、子どもたちも呼んできておくれ」
村長が指示し、動ける人たち総出で収穫することになった。
村の子どもたちが来ると、また感嘆の声が上がり、2人はまた昨日の出来事を話して聞かせた。
「しかし、話を聞けば聞くほど、不思議なこともあるものだな」
そばで見守っていた村長はしみじみと言った。
「まるで昔話のような出来事だな」
「昔話?それって、大昔、旅人が森で迷った時、炎の妖精が気まぐれに現れて、旅人を森から連れ出したって話のやつ?」
子どもたちが聞き返した。
「妖精がいたところには、周囲に恵みが与えられるという?」
「このあたりの光実は長年見てきた中でも特に上等なものばかりだ。一晩でこんなに見つけられるなんて、2人はもしかしたら炎の妖精様に会ったのかもしれないな」
「うらやましい!」
「私も会ってみたいな!」
「ねぇ、どんな姿だったの?」
「えぇと…」
ケティとコティは顔を見合わせた。
「お父さんより少し背が高くて」
「料理がとってもおいしくて」
「優しいおじさんだった」
「…おじさんが精霊なの?」
「へんなの!」
小柄で可愛らしい姿を想像してたのだろう。子どもたちはあからさまにがっかりした。
「まぁ、今回は優しい人だったのかもしれないが、次は不審者と出くわすかもしれないぞ。必ず、暗くなる前には家に帰るように!」
「はぁーい」
昔話を持ち出したのは、村長なのに…とケティは思った。
子どもたちは採取を手伝いに散り散りになった。
ケティもコティを連れて後に続こうとしたが、村長に呼び止められた。
「ケティ、昨日会った人は魔法は使ったりしたかい?」
「うぅん。魔法みたいだったけど、魔法じゃないって言ってた」
「…そうか」
村長は露骨にがっかりした顔をした。
「…もしかして、村長は妖精だったらいいなって思った?」
「儂の父が子供の頃に炎の妖精にあったことがあると聞いたものでの」
…一番夢見てるのは村長だったみたいだ。
背負い籠を何個も運び、村と往復した。かなりの量だったが、朝早くから収穫を始め、暗くなる前に収穫を終えることができた。
夕暮れに木々を見上げ、輝きがないことを確認し、みんなで村に戻った。
「1日で、数年分の量が取れるなんてな」
「それに、こんなに温かく、こんなに明るく光る実なんて今まで見たことないぞ」
「収穫祭が楽しみだな!」
「本当にお手柄だな!」
「夜中探したかいがあったね」
「すっげー!」
「まぁねっ!」
「へへっ」
帰り道、大人からも他の子から称賛を浴びて得意げな顔をしたのが良くなかった。帰宅後、オッティから聞いたカティがカンカンになり、夜遅くまでこってり絞られたのだった。
次の日、2人はまた焚き火跡を見に行った。
光実はすっかり取り尽くされたので、普通の森にしか見えなかったが、焚き火跡の灰からはわずかにスパイスの香りがした。
木々をすり抜けて風が吹いた。
灰はわずかに流されていたが、地面は焦げ跡ひとつなかった。
その近くに、茶色く乾いた、鱗のようなものが幾重にも重なった木の実が落ちていた。
花のようにも見える不思議な形で、焚き火のそばにあったはずなのに、焦げた様子はなかった。
ケティは何の気なしにそれを拾い、ポケットにしまった。
「お兄ちゃん、やっぱり夢じゃないんだよね?」
「うん」
コティは周りを見渡した。
「セージおじさん、どこ行っちゃったんだろうね」
「うん」
たった一晩の夢みたいな出来事を確認したくてまたここに来てしまった。
また、あの人が穏やかな顔で、焚き火の側で料理をしてるんじゃないかって期待してた。あの口いっぱいに広がる味を思い出し、喉がコクンと鳴った。
「そろそろお昼だし、帰るか」
「うん。お腹空いちゃった」
2人は背を向けて元来た道を戻った。
今年の収穫祭は、きっと今まで一番賑やかなものになるだろう。
半年以上間があいてしまいましたが、迷子編は以上になります。




