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焚き火と妖精2

「いらっしゃいましたぁ!お越しになりましたぁ!」


(幻聴か……?)


風が収まり、煙がまた炎の上でくゆらせていた。


誠治は異世界にまた転移したことに驚いたが、それ以上に声が聞こえることに毛が逆立った。

まるで、誰かが高速で走り回りながら叫んでいる。


誠治は辺りを見渡すが、人の影はない。


モスキート音はだいぶ昔に聞こえなくなり、気がついたら蚊に刺されるような年齢になってしまったが、明らかに誰かが近くで話す声が聞こえた。


「なんと、この良き日に巡り会えましたことを——」

しわがれ声のボソボソとした声にかぶさるように、溌剌とした声が響いた。


「くんくん……これが精霊様?変わった匂い。……だけど、なんだかホッとするなぁ!」

「すごい!贈り物もたくさんあるわ!」

「さすがだわ。すてきだわ」

「みんな、静かにして!静粛に!静粛に!」


(目の前で誰かが騒いでいる……!)


誠治は目をこすり、あたりを凝らして見たが、何も見えなかった。


「あの、どなたか、いらっしゃるんですか?」


顔をキョロキョロと動かすと、あたりは一瞬シンとした。


「精霊様は私達のお姿なんて、とっくに見えているものだと……大変失礼しました」


かわいらしい、けれど不思議と威厳のあるような声が聞こえると、視界の一部がぐにゃりと揺れた。

目の前の先の木立がねじれ、誠治は思わず後ずさった。


目の前に小さな虫のような、透明で光沢のある羽が生えた人間の姿をした生き物がいくつも現れた。

姿は様々で子どもから年寄りまでいる。

大きい人でも誠治の中指ほどだ。どの小さな目も誠治を見つめていた。


「まさか、姿を見せなければ見えないままだなんて……気づきませんでした。盲点でした。」

「これで見えますか?」

「はい……あの、あなたがたは?」


(まるで妖精みたいだ)


誠治が認識した途端、またもや一斉に話し始めた。


「私達はミコ族です。妖精の——」

「妖精……?」

誠治は戸惑った。

「私達、コキノ森に住んでいるの」

「あんまりにも”姿消し”した生活を続けていたせいで、姿現すの忘れちゃうんだよね?」

「妖精にも色々おりまして——」

「フィノ爺に会いに来てくれたんだよね?待ち遠しかった?」

「まったく、静かにしてちょうだい!」


わなわなと震えている一番年寄りだと思われる妖精の隣に、眉を吊り上げている若い女性が杖をブンブン振り回した。

すると他の妖精は口にチャックをされたかのように急に口を閉じた。

口をモゴモゴさせていたり、転げ回っている者がいる。


「まったく、厳かな式の場だというのに」


女の妖精が鼻息荒く、杖を腰のベルトに差した。

そして、コホンと咳払いをしてにっこり笑いかけ、空中でぴょこんと上下に揺れた。


誠治はあっけにとられた。


「精霊様、ようこそおいでくださいました。ここはコキノ森。私達は妖精のミコ族です。私はここの長老フィノのサポートをしています、娘のミコルと申します」


(聞き間違いじゃないよな……)


小さくて、羽が生えて、自分たちのことを妖精だと言っている。

誠治はその存在を初めて目の当たりにした。


(初めて見た。不思議なことはこれまでもあったが、妖精がいるなんて——)


誠治は目を丸くした。


羽からは鱗粉のような光の粉のようなものが、羽ばたくたびにこぼれていた。


「……あの、精霊っていうのは一体?」


「あなた様のことでございます。この度は私達の声を聞いてくださり、ありがとうございます」


ミコルの隣の老人が進み出て、杖を取り出し、杖を胸元に掲げ、ゆっくりとお辞儀をした。


「おぉ……お懐かしいです。フィノです。精霊様にまたお会いできて、恐悦至極……」


(もしかして、俺は勘違いされているのか……)


小さな老人にじっと見つめられ、誠治はなんだか居心地が悪かった。


心当たりがないのだ。


小さく息を吐いて誤解を解くことにした。


「あの、大変申し訳ないのですが、おそらく何かの勘違いかと」

「と、おっしゃいますと?」


ミコルは目をパチパチさせた。


「俺は精霊ではないです」


「なんと……なんと?」


聞き返すフィノをちらりと見て、ミコルは慌てて背筋を正して話をすすめた。


「……まぁ、ご冗談がお上手ですね。精霊の儀式にわざわざお越しになって……それに、このような多くの葡萄の枝を恵んでくださっているのに……おかげで、これからの冬はしばらく凍えることはないでしょう」


(枝って……)


誠治は飛び回る妖精たちから視線を外し、背後を振り返った。燃やそうと思って積んでいた枝の束が丸々そこにあった。


(なんだ?テント以外にも俺の近くにあるものは転移してくるのか?)


「あぁ……あれは——」


「やはり……本当にお優しいお方よ」


フィノと呼ばれた老体の妖精はさめざめ泣き、体がぐらついた。

ミコルは慌ててフィノを抱きしめた。


誠治は何と言ったら分からず、口を開きかけたが、黙って閉じた。


ミコルは杖を取り出し、口をモゴモゴさせている妖精たちに杖を一振りすると転がっていた妖精の一人が慌ててフィノのそばに駆け寄った。

ミコルはおさげ髪をした栗毛の妖精に二言三言何か話した。

おさげ髪をした妖精はフィノを近くの切り株の上につれていき、細い枝で作ったロッキングチェアに座らせた。

フィノは誠治を見つめながら、何かを呟いていた。


ミコルはフィノが椅子に座ったのを確認すると、誠治の眼の前へ飛んできて、ひそひそと話しかけた。


「申し訳ありません。本当にもう一度確認させていただきたいのですが、本当に、精霊様ではないのですか?フィノという名前も聞き覚えがないのですか?」


突き出したミコルの顔は真剣そのものだった。


「え、えぇ……妖精とお会いしたのは今回が初めてです」

「……そうですか」


その声音は明らかに沈んでいた。

ミコルは手を口元で覆い、目を伏せた。


(どうしたものか……)


誠治はたじろぎ、頭をぽりぽりかくと、ミコルは考えがまとまったのか、顔を上げた。


「あなた様にお願いがあるのです。少しの間、この祭り、いいえ、この儀式が終わるまでで良いのです。精霊様として、私たちの長老、フィノのそばで過ごしてはいただけないのでしょうか?」


「それは……俺はかまいませんが……でも、話し相手くらいしか俺は役に立たないですよ?精霊らしい振る舞いがどういうものか分からないし」


「良いのです。ずっと精霊の儀式は形式的に行われてきたもので、この森で精霊様にお会いしたことがあるのは、父のフィノだけなのです。ただ、それも本当のことなのか、記憶があいまいになってしまった今は、父が本当のことを言っているのかは誰にも分かりませんが……でも、あなた様を精霊様とお呼びするのは何か意味があるはずなのです」


「……わかりました」


(これも何かの縁なのだろう)


誠治はうなずいた。

ミコルはほっとしたように微笑んだ。


「あなた様の名前をお聞きしてもよいですか?」


「誠治。日野誠治です」


「感謝いたします、セージ様。急にお呼びしたうえ、厚かましいお願いを受け入れていただき、ありがとうございます」


ミコルは誠治に礼を言い、手を差し出した。

誠治も手を差し出し、ミコルは誠治の人差し指と握手した。

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