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焚き火と妖精3

(ミコルとひそひそ話をした意味は、果たしてあったのだろうか……)


みんな飛びまわり、口々に色んな言葉が早口で飛び交うので、誠治は誰に話しかけられて、誰に返事をすればいいか混乱した。


「セージ様は精霊様じゃないの?」

「いままでの儀式で、精霊様が来てくれたことなんて一度もなかったのに」

「きっとね、今回は上手くいったってことなのよ」

「フィノ様。この方が、本当の、本物の、精霊様なの?」

「あぁ、炎の精霊様じゃよ」

「でも、さっき違うってセージ様が言ってたよ?」

「……セージ様も動揺してらしたのよ」

「この前だって収穫したグミの実を精霊様の炎だって言ってよな」

「まぁた、フィノ爺の勘違いかもよ」

「セージ様、どうなの?本当に精霊様なの?」


「えぇと……」


急に話を振られて、誠治は答えに詰まった。


「みんな見て!この枝の束!すごいわ!とっても上等よ!きっと実も上等だったろうなぁ!」


叫ぶ声に、誠治は振り返った。

枝の束をうっとりした顔で嬉しそうに触っているお団子頭の妖精がいた。


「どうせならブドウも食べたかったなぁ……」


お団子頭の妖精の隣で、どんぐりのかさの帽子をかぶった男の子が指をくわえ、うめいた。


「シメア!なんて失礼なことをいうの!」


ミコルは目を吊り上げた。


「こんなにプレゼントしてくれるなんて、やっぱりセージ様は精霊様よ!」

「そうじゃろう、そうじゃろう」


フィノはひどく嬉しそうに顎髭を撫でつけた。


「そうかなぁ……ま、どっちでもいいや。ありがとう、セージ様」


(いったいどこまで俺は精霊だと思われているんだろう)


誠治は枝の束をあげるとは一言もいっていないが、彼らの中では決定事項のようだ。

それは構わないのだが。


(この場合、フィノさん以外、俺が精霊様かどうかは重要じゃない気が……)


「シメア、お礼に誠意が足りないわ!」


「ははは……もともと燃やす予定だったんだ。こんなものでも喜んでくれてよかったよ」


「いいえ!こんなものだなんて、とんでもないです」


ミコルは驚いて言った。


「枝は燃料になりますし、家の材料にもなります。冬越しには欠かせないものなんです。それなのにシメアときたら——」


「きっとおなかがすいているのよ。それで、ちょっぴり意地悪になっているんだわ」


フィノを座らせていたおさげ髪の妖精がかばうように言った。


「ポーラ、甘やかすのは駄目よ。……でも、そうね。せっかくセージ様をお招きしたんだもの。きちんとお祝いしなくちゃ!」


ミコルがそう言うと、杖を取り出し、焚き火の周りをぐるりと飛んだ。

すると、地面からにょきにょきと白いボールが生えてきて、どんどん大きくなってきた。

よく見たら根元が細くなりキノコのように見えた。


「おぉ……すごい……」


(さっきもそうだが、妖精って魔法が使えるんだな)


誠治は目を輝かせた。


「さ、セージ様。こちらへどうぞ」


触れただけでも危ないキノコがあることを誠治は知っていたが、得体のしれないキノコだと分かっていても好奇心の方が上回った。

ミコルに促され、誠治はフィノの座る切り株の隣に生えたキノコ状の椅子へゆっくり腰かけた。


「ふかふかだ……」


(すごく座り心地がいい)


まるでお尻がやわらかいクッションに包まれているようだ。


誠治が座るのを見て、さんざん好き勝手に騒いでいた妖精たちは、さっと焚き火を取り囲んだ。

その動きがあまりにもきびきびしていたので、誠治はぽかんと口を開けた。

ミコルは誠治の顔を見て、コホンと咳ばらいをした。


「セージ様。本来、精霊様への儀式は厳かなものなのです。精霊様は私たちにとって畏怖と親交の対象なのです。皆、口では何と言っても、セージ様のお姿を見て喜びを抑えられなかったのです」


そして、頬を少し赤らめた。


「私たちは、セージ様を歓迎いたします」


ミコルはそう言うと、杖を胸にあて、体を上下に揺らした。


ほどなくして、歌と踊りが始まった。



大きなあなた、小さなわたし

おうちへ飛んでお帰りよ

おうちが燃えてる、ゆらゆらと

子供ら、みんな逃げちゃった

光る木の実はぽわぽわと

触れれば、お羽がさようなら

一人残った、ちっちゃなあの子

あったかお鍋の下の中

あなたのことを忘れても

わたしは、あなたを忘れない



歌声が木々や風のさえずりのようにも聞こえる。


(すごく綺麗だけど……なんだか悲しい歌詞に聞こえる)


焚き火の炎と飛び回る羽からこぼれる光の鱗粉で、ひどく幻想的に見えたが、それと同時に炎に魅入られる危うい虫のようにも見えた。

今にも飛び込む者が出るのではないかと、誠治はハラハラして、思わず前のめりになった。

そんなことは杞憂で歌が終わるころには、自分の失礼な考えに、思わず唇を噛んだ。



誠治は、焚き火が火の粉と光の鱗粉とを巻き上げる様子をぼんやり眺めていた。

一人、また一人と踊りを終え、焚き火から離れていった。

それに気づくと、誠治は慌てて手を叩いた。


「素晴らしかったです。本当に見入ってしまいました」


誠治の言葉に近くを飛んでいたポーラがポッと顔を赤くし、そそくさとフィノの横に降り立った。



ミコルは杖を振り、大きな葉を並べ始めた。

踊り終えた者から順に食べ物を運んできた。


「セージ様もどうぞ」


誠治の両手よりも大きな葉の上に木の実や果物、きのこを乗せ、切り株の上のフィノの隣の空いている場所に置かれた。


それを見ただけで、誠治は急におなかがすいた。

寝起きからすぐに枝を処理していたので、何も食べていなかったことを思い出した。


「いつもならこの時期は収穫物でにぎわうのですが、今年は不作気味でして……」


ミコルは遠慮がちにもじもじした。


「とても新鮮で素敵ですよ」


誠治はにっこりした。


「遠慮なさらずに召し上がってくださいね」


ミコルもつられて笑った。



(そうは言ったものの……)


誠治は葉の上に目を落とした。


(果物はともかく、キノコの生は……良くない……よな)


無作法になりませんように、と思いながら、誠治は遠慮がちに聞いた。


「あの、ミコルさん。先ほどの踊りはとても素晴らしかったです。そのお礼に、良ければ、俺に少し料理をさせてもらっても構いませんか?」

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