焚き火と傭兵7(エール煮でエールを)
3人の驚いた顔に誠治も驚いた。
「え?いや、故郷に帰るってことは、自分のやりたかったことを、また追いかけられるようになった、ってことですよね?」
「………」
(しまった、何か余計なことを言ってしまったか?)
誠治は、手元の皿の汁を飲みきっていたことに気づいた。
(どうも思った事を口に出しやすくなっている気がする。やはり酔っているのか?)
「そう……だな」
ジャハンがポツリと呟いた。
「……そうだよな。そんなこと、どうして気がつかなかったんだろう」
「やり直せる、そうだよな?」
カルクが誠治に聞き返した。
「俺たちは人生の半分近くを、剣に、戦に、生きるために捧げてきた。こうして子供の頃の話なんていつぶりだろうな」
アゼルは少し肩を落として、ジャハンとカルクを見た。
4人の声は、いつの間にか賑やかなものになっていた。
日が落ち、誠治は薪を足した。
なんとなく立ち上がるのが億劫で、ランタンを出す気にはなれなかった。
3人は誠治の意見を聞きたがった。
長年、戦いを強いられた生活のせいで、頭が凝り固まってしまっていると言うので、誠治は責任もない、ただぼんやりとした意見をつらつら話した。
「ですからね、ジャハンさんが料理を作って、その道具をカルクさんが作って、アゼルさんが宣伝すればいいと思うんです」
「なるほどな、いいじゃねえか!」
「俺もなにか作りたいんだが」
「やってみてもいいが、アゼルは不器用だろ?顔はいいんだから、剣舞でも披露したらどうだ?宣伝になる」
「というか、親父さんの伝手で村の特産品を街に宣伝しに行ったことがあるだろ?その方が広めやすいんじゃないか?」
「なるほどな。たしかにエールの宣伝とエールを使った料理を振る舞うというのはいい考えかもしれない」
「そういえば、そちらの世界にもあるのかもしれませんが、キッチンカーというのはどうですか?移動式の乗り物に料理をする場所を作って売り歩くんです」
「道具をすべて自分たちで持ち歩くのか。しかし、それだとあまり量は作れないな」
「宣伝になるなら、それでもいいんじゃないか?店の地図を渡して、気になれば来てもらうとか」
「作ったものを売り歩くのはどうだ?」
「温かい方が美味いですよ?」
「セージの言うとおりだ。出来立てを売るのは譲れない」
話はどんどんすすんでいった。
「すごいな。セージの発想には感心したぞ」
「というか、考え方一つでこんなに前向きに未来を考えられるようになるとは思わなかった」
「そうだ!良かったら、セージも一緒にやらないか?このことは誰も考えつかなかったんだ。どうだ?」
「いい考えかもしれません。楽しそうですし、とても」
誠治は急に目頭が熱くなった。
出会った時は3人の瞳の奥がどこか沈んでいたのに、今ではそれが嘘のように感じられた。
「でも、俺は……明日もここに存在するか分かりません。」
その言葉に3人の笑顔が固まった。
「……」
「それでも俺は3人の夢を応援したいと思いました。だから、光実は差し上げますよ」
(今なら、光実をうまく活用してくれるんじゃないだろうか)
「売って、資金源にすればいいんです」
誠治はとてもいい考えだと思った。
「……」
3人は顔を見合わせて頷いた。
「お人好しだな、あんたは」
アゼルは少しあきれたように言った。
「セージ、お前の大事な思い出なんだろ?」
カルクはこっそり細い革紐を編んで実を包んだようで、紐に括り付けられた光実を誠治の手に押し付けた。
「でも……」
「セージ、それの価値がわかってないな。そんな高価なもの、真っ当な所で売ったら、出どころを探られるかもしれないんだ。上等なものは魔法使いが管理している代物だ。足がつくかもしれない。闇市場に行けば別かもしれないが、それだと俺たちが売ったんじゃ、足元みられて一時の泡銭にしかならないだろうよ」
「アゼルの言うとおりだ。それに、俺はセージの料理を見てエールの使い道が飲むこと以外にもあるってことを知れたんだ。セージからは十分なものをもらったよ」
「しかしですね」
「ごちゃごちゃ言うな。何かしたいと言うならもう少し付き合え。明日いなくなるかもしれないなら、俺たちはもっと仲を深めるべきだ。そうだろう?戦場でもそうだった。忘れないために、な。そのほうがずっと尊いことだろうが」
「……そういう言い方はズルいですよ」
誠治はわけもなく泣けてしまった。
「セージは涙もろいんだな」
焚き火を囲んでそれから何を話しただろうか。
焚き火の火もいつもより薪を多く入れたので、大きかった気がする。
それに、久しぶりにだいぶ飲んだ気がする。
……
……頭が痛い。
……ポカポカするが、地面が硬い。
(コットから落ちたか?)
「うぅーん……」
頭を少し捻るだけで、頭がズキズキする。
それにひどく喉が渇く。喉元がザリザリと擦れる違和感がある。
誠治は目を開けると、テントの入り口の布が風で揺れて顎をかすめていた。
首元にチャックが擦れるのを感じ、ようやく頭だけテントに突っ込んでいることに気がついた。
(寝ようと思って力尽きたのか……?)
ポケットをまさぐると紐の感触と丸く温かいものを感じた。紐を引っ掛けて、取り出すと、それは光実だった。
(結局、返されたんだっけ)
誠治は水を飲もうと、のそのそと起き上がり、頭をテントから引き抜いて振り返った。
そこには誰もいなかった。
焚き火は消え、煙すら上がっていなかった。
静かすぎるほどに。
差し込む朝日が眩しくて、誠治は目を細めた。
あたりには、ほのかにアルコールの匂いが漂っていた。




