焚き火と傭兵4(ビア缶チキンは思い出の中)
「なぁ、あんたの名前は?」
「誠治です。日野誠治」
「セージか。変わった名前だな」
「そうですか?」
名前を聞いてくるくらいには、ジャハンは誠治の料理をいたく気に入ったようだ。
ジャハンは次に何をするのかと、誠治と一緒にクーラーボックスを覗き込んだ。
誠治は丸鶏の袋とビール缶を取り出した。
「円筒状のものは新しいソースか?」
「これは酒ですよ」
——カシュッ!——
誠治は軽快に蓋を開けた。
「俺にも1杯くれ」
カルクが手を突き出した。誠治は笑った。
「これは料理に使うんですよ」
「なんでぃ。もったいねぇなぁ……」
「まぁ、少しだけならどうぞ」
誠治は少しだけシェラカップに注ぎ、カルクに渡した。
「ずいぶんと軽いな。鉄じゃないのか?」
「これはアルミ製ですね」
「ほぅ?聞いたことがない素材だが、かなり薄いんだな……それにこの酒、香りがいいな」
カルクは少しシェラカップを眺めて、匂いを嗅いだ。
そして、グイッと一口で飲んだ。
途端に叫んだ。
「なんだ、こりゃ!こんなにうまいエールは初めてだ!こんな上等なものを本当に料理に使うのか?」
「そ、そんなにうまいのか?俺も一口でいいから飲ませてくれ」
ジャハンはゴクリと喉を鳴らした。
「あまり飲まれると、料理に使えなくなっちゃいますけど、どうぞ」
誠治はまた少しだけ注いだ。
(正直、俺はこの年になってもビールの良さが分からないんだよなぁ……)
誠治は缶ビールの中身をちらりと見た。半分くらいまで減っている。
「美味いな……冷えているからか、喉越しもいい……」
ジャハンも一気に飲みきったらしい。
「そろそろいいですか?」
「あ……あぁ、そうだな」
「こんなうまい酒を使うんだ。まずいわけがねーぜ」
カルクもかなり期待しているみたいだ。
「本当にいいんですよね?いきますよ?」
誠治は改めて2人に聞き、石窯の上の隙間にカルクの頭の防具を逆さまに置いた。
そして、ビール缶に丸鶏を刺し込み、立たせた。それをカルクの頭の防具の中に置き、ジャハンの胴の防具をかぶせ、ジャハンの頭の防具を蓋代わりにした。
「俺が提案しておいてなんだが、なかなかすごい絵面だな…」
「こんな使い方をするなんて、俺も思っても見なかったぜ」
(本当に後悔していないだろうか……?)
少し寂しそうな、名残惜しそうな2人の顔を誠治は見た。
「だから止めたんだ」
そんな3人をアゼルは鼻を鳴らして見ていた。
カルクの頭の防具はあっという間に煤まみれになっていった。
「出来上がりまで、だいぶ待つのか」
カルクは待ち遠しそうだ。
さっきのビールで物足りないのか、また手持ちの酒を飲み始めた。
誠治は火が強くなりすぎないように、時々薪の位置を動かした。
「それにしてもさっきの炒め物は美味かった……」
「あぁ、あんなに美味いものは本当に久しぶりだった。」
カルクは少し涙に目を浮かべていた。酔いが回っているのかもしれない。
「セージさんよぉ、俺たちの武勇伝、聞いてくかい?」
(カルクさんは、絡み酒するタイプなのか)
「私が聞いてもいいんですか?」
「おおよ。あんたが聞いて広めてくれ。人知れず活躍した戦士たちの物語を!」
カルクは大演説を始めた。
3人は故郷を飛び出し同じ小隊に配属されたこと。
小隊は前線に配置されたこと。
ジャハンは斥候で潜り込んだ敵地で次の侵攻場所の情報を得たこと。
上からは人数を割けないため、小隊だけで奇襲作戦が組まれたこと。
カルクとアゼルの活躍で、拠点を守ることができたこと。
長々と語った。
カルクは、始めは笑っていたが、次第に声を荒げていった。
「その拠点を守ることができて、結果として戦争の勝利を導くきっかけになったんだ……あちらさんは、俺たちを恨んだだろうよ。だが、それも気にならないくらい、俺たちには褒賞を与えられることになった……そこまでは良かったんだ……」
カルクは吐き捨てるように言った。
「無茶な奇襲作戦を指示した奴がこれこそ自分の功績だと語りやがったんだ。ふんぞり返って現地にも来ず、部下を何人も見殺しにした奴が…ふざけた話だ」
「……」
誠治は黙って耳を傾けた。
「黙って見過ごせばよかったのによ……俺らがちょいとばかり暴れたせいで褒賞の話は消え、かろうじての報奨金のみよ。雇われ傭兵だからって使い捨てられたのさ」
カルクは酒をぐいっと流し込んだ。
「戦争は終わった。それを望んで志願したのに、雇われはまた次の戦地を探さないといけねえ。加えて向こうの国からは恨まれてるときたもんだ。それに俺たちは疲れたんだ」
「俺たちは同郷でさ、一緒に故郷に帰るところなんだよ」
ジャハンが静かに言った。
野菜炒めを食べていた時と違い、また最初にあった時の強張った顔をしていた。
「そして大して金もない、生きていく当てもないのが今の俺たちだ」
アゼルは黙ってじっと誠治をにらんだ。
だが、剣を抜く様子はない。
「だから……セージ。光実を譲ってくれないか?これを売れば、俺たちはしばらく生きていける」
「……」
誠治は口を開きかけたが、唇をキュッと結んだ。
光実はすでにカルクが握っている。
(そのまま持って逃げればいいのに……だけど、それをせず聞いてくるのは——)
いつの間にか、あたりは香ばしい匂いが漂っていた。
「ビア缶チキンが出来上がったみたいなので、一先ず食べませんか?お腹も膨れれば、またいい考えも浮かぶかもしれません」
誠治はゆっくりと微笑んだ。




