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焚き火と傭兵3(焼き肉のたれは肉なしでも美味である)

「得体のしれないやつの作ったものなんか食えるか!」

「そういうなよ。携帯食料はさっきので終わりだったんだぞ?それに、こいつは自身の命がかかってんだぜ?」

「お前も物好きだったとはな。ジャハン、戦場での警戒心を忘れたのか?!」

「いいじゃねぇか。ジャハンの勘は当たる。それに明日が来ないかもしれないという諦めを受け入れる度胸はまだ持ってるぜ。最後にうまいもの食わせてくれよ。じゃねぇと、損だろ?」

カルクは豪快に笑いながら焚き火から離れたところで光実を眺め、瓶の酒をあおった。


三者三様とはこのことか。


誠治はジャハンから料理を作ってほしいと頼まれたが、それで本当に見逃してくれるのか不安になった。

交換条件として、ジャハンは命を保証すると言ったが、それについて他の2人は何も言っていない。

アゼルにいたっては剣を収めてくれたが、毒を入れないかと、ずっと誠治ににらみを利かせてくる。


(楽しく作りたい……)


誠治は急に迷子の兄妹がいた森が恋しくなった。前とは違う不安が押し寄せてくるのだ。


それでも、誠治の腹の虫は鳴いて早く腹に入れろと喚いていた。

「あんたって、相当図太いんだね」

その音をジャハンにも聞こえていたらしい。

ジャハンはくすくす笑った。


「俺たちも腹減ってるからすぐ食べられるもの、作ってよ」



誠治はクーラーボックスからいくつか野菜を取り出した。

火が通りやすいよう、手早く薄く切る。

それらをスキレットに放り込んだ。


「……いつの間に焚き火の周りに石を積み上げたんだ……?」

ジャハンは首をひねった。


——ジャッジャッジャー……——


手首を軽くひねり、野菜を時々中に浮かせた。


「それにしても、手際がいいな」


それを眺めていたジャハンは感心したようだった。

焚き火の炎がジャハンの瞳を煌めかせ、その顔は思っていたより幾分若く見えた。


「そうですか?簡単な味付けになります。もうできますよ。」

誠治は小瓶から焼き肉のたれを回し入れた。


——ジュワァァァァーーー……——


たちまちニンニクの香りと焦げた醤油のにおいがあたりに立ち込めた。


「何この香り」

「おいおい、ずいぶん食欲をそそるにおいじゃねぇか」


ジャハンは息を大きく吸い込み、カルクは寝そべっていた体を起こした。

アゼルでさえ、むっつりとにらみながら、唾を飲み込んだ。


誠治は皿に乗せ、ジャハンに手渡した。


「ただの野菜炒めですけど、どうぞ」

誠治はフォークをわたすのを忘れなかった。


「どうも」


ジャハンの笑顔が少し硬かった。

気安く頼んできたが、ジャハンは警戒心も忘れなかったのだろう。

においをもう一度嗅ぎ、渡されたフォークを酒で洗い、拭いてから、恐る恐る一口食べた。


「……」


「どうだ?どんな味だ?」

カルクが切羽詰まったように聞いた。


「……」


ジャハンは何も言わない。


「おい……」


カルクは不安そうに声をかけた。

アゼルは剣に手が伸びていた。


——もぐもぐもぐもぐ、ごくん。ぱくっ、もぐもぐもぐ…——


ジャハンは無言で、噛んで、飲み込んで、また口を開くのを繰り返した。


カルクはしばらくぽかんと眺めていたが、ハッとした。


「……おい。旨いんだな?そうなんだな!何一人で半分以上食ってるんだ!」


カルクはジャハンの皿とフォークを引っ手繰った。


「もぐもぐ……これは、もう少し毒見が必要で…」


ほおばりながら、ジャハンは皿を取り返そうとした。


「いーや、必要ないな。毒見は俺がする」


カルクはひょいひょいと残っている皿の中身を一気に口に放り込んだ。


「うっまいじゃないか!」

「あーーーー!!!」


カルクは顔を綻ばせ叫び、ジャハンの絶叫が響いた。


美味しかったのはよかったが、またひと悶着ありそうだと、誠治は苦笑いをした。




「おかわり、どうぞ。さっきと同じ味付けです」


そう言い、誠治は野菜炒めを4つに取り分け、3人にふるまった。

アゼルは2人を眺め、誠治が食べたのを見てから、ため息をし、口にした。


「これは……たしかに、うまい」

アゼルは驚いた顔をした。


「だがしかし、もぐもぐ……遅効性の毒の可能性も…ごくん。あるかもしれないな」

「だったら、俺にくれ。食べたりなくてな」

「断る」


(……食べてもらえた)


少しは信頼してくれたのだろうか。

誠治はほうっと息を吐き、少しだけ肩の力が抜けた気がした。




「こんな新鮮な野菜は久しぶりだ。この味付けも初めてなのに癖になる。あぁそうだ、あの肉も焼いてくれよ」


ジャハンがクーラーボックスの丸鶏を指してきた。


「あれは……」

誠治が言いよどんだ。


「なんだ、命が惜しいのか?」

カルクが不満そうに脅してきた。


「いえ、その……。そうではなくて、あれで作ろうとしていた料理に必要な道具を忘れてしまって……少し未練があったんです」

「ほぅ?」

カルクが片方の眉を上げた。


「けどまぁ、ないものは仕方ないので、すぐに焼きますね」


「待って」


誠治が丸鶏を取ろうと立ち上がると、ジャハンが口を挟んだ。


「何を忘れたの?」

「アルミホイルです」

「あるみ、ほいる?」

「燃えない素材で包む道具です。あの鶏肉に直接火があたらないようにするんです。そうすると奥までゆっくり火が通って香ばしくなるんです」


(身近で使っているものなのに改めて説明するというのは難しいな)


「ふーん……それってさ、肉が燃えないように覆えたらなんでもいいの?」

「え?えぇ……まぁ、たぶん」


誠治の返事を聞いて、ジャハンはおもむろに身に着けていた装備を外し始めた。


「何してんだ!?」


アゼルが非難がましく叫んだ。


「いやぁ、この鉄の鎧(スチールメイル)を使えないかなと思ってさ。この胴の部分ならすっぽりでしょ」

「それは、やってみないと分からないですけど……」


「この野菜炒め美味しかったからさ。あんたが作りたかったものに興味があるんだ。うまいものが食べたいんだ。頼むよ」

「だからと言って俺たちを今まで守ってくれた防具を調理器具にするなんて——」


「アゼル」

ジャハンは制した。


「俺たちは戦争にはもう関わらない。そう決めたじゃないか。俺達には必要ないものだろ?」


「……好きにしろ」


アゼルは野菜炒めをかきこんで、むっつり黙ってしまった。


「えー…と、あの、本当に使っていいんですか?」

誠治は不安になった。


「いいの、いいの」

ジャハンは軽く言い、カルクに声をかけた。


「カルク」


「んだよ、ジャハン。言いたいことは分かる。ほらよ、これも使えるか?」


カルクは頭の防具を外して、ジャハンに投げた。


「ジャハンは俺より頭が大きいからね。下からの火を防ぐのに安定すると思わない?」


ジャハンは誠治に人懐っこい笑顔を向けた。


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