第二十四話の1 序章は荷馬車の上で
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「あのう…乗せていただけませんか…」
そんな声が聞こえてきて、荷馬車の屋根から仮面の男はむくりと上体を起こした。
少し先の道端で、ボロボロの服をまとい、はだしの男が通りすがった乗り合い馬車に声をかけたようだ。
ところどころ破れた赤い帽子から茶色の髪の毛があちこちに飛び出している。
御者は見向きもしない。
歩いている旅人も、そんな見なりの人間にかかわりあいたくもないのか、「もし」と声をかけられても足早に去っていくばかり。
「やあ、どうされました」
荷馬車を止め、屋根から飛び降りると仮面の男は声をかけた。
はだしの男は見上げるほどの荷馬車に一瞬ギョッとしたようだが、それでもホッとした顔になると帽子を取り、「どうも、こんにちは」と言った。
彼はリビオと名乗り、出稼ぎを終えて故郷へ帰る途中の山道で盗賊に襲われ、身ぐるみはがされ、ほうほうの体で逃げ延びてきたのだといった。
「路銀もなく、こうして歩いてきましたがいよいよ体力もつき、困り果てていたのです」
「それはそれはご災難でしたね」
仮面の男は路肩に荷馬車を止め、木箱をうんしょと言いながら運んできてリビオを座らせ、もう一つの木箱に飲み物と皿に乗った果物を置いた。
リビオはよほど腹が減っていたとみえ、感謝の言葉を発しながらあっという間に飲み物を2杯、果物を3個ほど平らげた。
その様子を仮面の男は立ったまま、水の入った容器を手に、静かに眺めていた。
「ああ、生き返りました」
3杯目を飲み干して、リビオはようやく笑顔になった。
「このお礼は必ず」
「いえいえ、ここで会うのも何かのご縁でしょう。よろしければ私の荷馬車で町までお送りしましょう」
「なんとありがたいことだ! 神に感謝します」
「……」
リビオの様子に仮面の男は珍しく困ったような表情を浮かべた。
それも一瞬のことですぐ笑顔に戻ると指をぱちんとはじいた。
上に乗った器や皿ごと木箱がたちまち消え失せた。
「へえ、驚きました。さすがは旅の一座ですね。いいものを見せてもらいました」
リビオは驚いたような顔をして、木箱が消えたあたりをしげしげと眺めた。
「さあ」
仮面の男が手を出した。
「この上に乗るのは少しばかりコツがいるんで。私の手をつかんでください」
リビオはうなずいて仮面の男の手をとった。
と、瞬きする間に彼は荷馬車の上に立っていた。
「こりゃ驚いた」
「いやはや、驚いていただければ芸人冥利につきるというものです」
仮面の男はにっこりと笑ってみせた。
それから荷馬車はゆっくりと進み、次の町に差し掛かった。
「ここだここだ! ようやく帰ってこれた!」
仮面の男に荷馬車から降ろしてもらったリビオは、涙を流しながら喜んだ。
「何かお礼を。少し待っていただければ家から何かしら差し上げるものを」
「それには及びませんよ。私どもは次の町でショーの準備をしなければならないため、ここで失礼します」
「本当にありがとう! 家に帰ったら家族でショーを必ず見に行きますので」
リビオは何度も頭を下げ、門に向かって走っていった。
仮面の男はそれを見届けることなく、荷馬車の歩みを再開した。
◇◇◇◇◇◇◇
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