第二十三話の6 真実を救うための嘘
「準備できたぞ」
「このガキはどうする」
「ほっとけ。そのうち魔物にでも食われるさ」
「そうだな」
「さーて大金大金」
「適当にいい女いたら攫おうぜ」
男たちが移動を始めた。
ロンは縛られた体勢のまま大きく息を吸うと「人がきたぞー!」と叫んだ。
男たちが一瞬ギョッとする。
が
「嘘だよ嘘。こいつの嘘に騙されるな」
ザルトがいった。
そしてふと、振り向いた。
リックが後ろに立っていた。
ザルトは腰を抜かさんばかりに飛びのき、目を見開いた。
後ろには村人たちが斧に鍬や鋤など、武器を持って立っている。
「いつも柵を見回っていたロンの姿がないと隣の奥さんが飛んできてな」
「その子に手を出したらただじゃおかないぞ」
「もうすぐ憲兵も駆けつけてくるからな」
ザルトらは驚いたようだが、すぐにニヤリと笑うと「たかが村人どもだ。やっちまえ!」と各々が剣を抜いた。
「俺たちの村を守れ!」
村人たちも声をあげる。
村人の数に最初は気おされていた賊達であったが、荒事には慣れていると見え、次第に勢いを取り戻していく。
盗賊たちもやられはしたが、だんだんと地に転がる村人の方が増え、数人が息も絶え絶えに盗賊たちと必死に戦っていた。その中にはリックの姿もあった。
ロンの目の前に切り付けられた村人が転がり、うめいているのを彼はただ見ていることしかできなかった。
いや。
「憲兵がきたぞー! たくさんの兵がきたぞー!」
彼は声の限りに叫んだ。
賊はハッと振り返ったが、すぐにニヤリと笑い「そんな嘘にもう騙されねーよ」と言った。
「ではその嘘を私が本当にいたしましょう」
いつのまに現れたのか、仮面の男がつげた。
不敵な笑みを口元にたたえて木札を掲げる。
甲冑姿の軍団が赤いマントをなびかせ、ドドドド…と馬で現れた。
男たちはあわてて逃げだしたがあっという間に囲まれ、抵抗するも切り伏せられていき、瞬きする間に全員が取り押さえられた。
兵士らはそのままけがをしている村人たちに近づき何かを飲ませているようであった。
すぐに彼らは起き上がり、無事を喜びあっていた。
「ロン、大丈夫だったか」
「頭がちょっと痛いけど平気だよ」
リックがロープをほどき、ロンを抱き上げた。
「今日の功労者はロンだ! こいつのおかげで盗賊への備えができた」
村人たちがリックとロンを囲み歓声を送った。
「遅れてすまない! 連絡を受けて盗賊どもを捕縛しにきた!」
その声に振り返ると、馬に乗った白銀の鎧姿の兵が5人姿を現した。
「兵の方々なら先ほどお見えになってこの通り…」
村人の一人が縛り上げられた盗賊たちを指さす。
先ほどまでいたはずの甲冑姿の軍団は消え失せていた。
「我々のほかに駆け付けた者がいたと?」
「あれ? 我々の手当てまでして下さって……」
「まあまあ。いいじゃありませんか。ともかく、この盗賊どもを連れて行ってください」
仮面の男が進み出る。
「貴殿は?」
「数日前からこの村でショーを行っている旅芸人一座の団長です。今回村の危機と知り、いてもたってもいられず駆け付けた次第で」
「そうか、わかった。あとはこちらにまかせよ」
そうして一連の事態は収束したのであった。
「団長さあ、あれ、嘘だろ」
「はて? なんのことですかね」
食堂への道をとことこと歩いていた仮面の男にロンが声をかけてきた。
片手にリンゴを持ちかじっている。
「憲兵がきたって俺が言った時。本当に兵がきたんじゃなくて、団員さんらが変装してたとかなんかだろ。でないとあんな都合よく間に合うわけがない。俺は縛られてたからずっと見てたんだ」
「おーやおーや」
仮面の男は頭を揺らした。
「秘密ですよ?」
フフ、と口角をあげて仮面の男は笑った。
「ま、いいけどさ」
「あ、よかったらロン君一緒に食事でも」
「俺はこれがあるからいい」
ロンは手のリンゴを持ち上げて見せた。
「そうですかぁー?」
「団長」
「なんですか?」
「羊が走ってくる」
「まーたまたぁ、そんな嘘を」
笑いながら仮面の男は振り返る。
そのとたん、突進してきた羊に突っ込まれ仮面の男は吹っ飛んだ。
「俺だってたまにはホントのことを言うんだぞ」
◇◇◇◇◇◇◇
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