第二十四話の2 主役のいない即興劇
翌々日のことであった。
「サァサァ、ショーが始まる時間はもうすぐですよォ! 皆様お見逃しなく!」
チケットを持った最後の客を入れ終えて、ほかに客はいないかと見まわしていた仮面の男は、ぽつんと離れて立つリビオに気づいた。
「おやおや、どうされました」
「それがその…」
ようやく家に帰ってこれたと喜んだのもつかの間、家には人の気配はなく、扉は固く閉ざされていた。
あわてたリビオは町中をあちこち駆け回り、人々の話から、家族が戻ってこない自分を探しにあちこちの町へ出かけていることを知った。
ここにはほとんど帰ってこないのだという。
「時間の感覚がわからなくなっていたのですが、私が家に戻れないまま1か月は経過していたようなのです。知っていれば手紙を出して無事を知らせたものを…」
「それはお困りですね」
仮面の男はふむ…と考え込んだあと、「ではこういうのはいかがでしょう?」とリビオに耳打ちした。
リビオは「そんな…いいのですか…私はありがたいですが」と困惑の表情を見せた。
「いいのですよ。たまにはこんな変わったこともしませんと、お客様に飽きられてしまいますのでね」
仮面の男は手をたたき、団員を何人か集めた。
そうして時折リビオに確認するように顔を向けながら、長いこと話し込んでいた。
「サアサア、このたびはちょいと趣向を変えまして」
幕が上がる前にそでから仮面の男が声を張り上げた。
観客たちは何があるのかとそちらを見る。
「これから始まるは、山賊に襲われながらも逃げ延びて、家族のもとへ帰りたいと願う男の物語! どうか哀れと思召すならば、ご家族をご存じの方はお知らせください!」
幕があがり、赤い帽子をかぶった団員が現れた。
「家族のためにたくさん働いて稼いだぞ! お土産においしい食べ物も買ったし、早く帰ろう」
そのセリフを言い終わるやいなや、山賊に扮した団員らが現れ、赤い帽子の団員を取り囲み、わあわあと騒ぎ、去っていった。
後にはぼろぼろの服に赤い帽子を握りしめた団員が残された。
そのあとあちこちの町を旅し、人々にぞんざいに扱われる様子を見て観客たちは驚き、涙し、心無い人間に怒りをあらわにした。
そうして赤い帽子の団員がこの町に帰ってきて喜びをあらわにしたところでは、拍手が巻き起こった。
しかし。
家の扉が閉ざされ、家族はおらず、絶望する団員を見て今度はすすり泣きの声が聞こえてきた。
「ああ、私の家族はどこにいってしまったのだ」
赤い帽子の団員は立ち上がり、「わが名はリビオ! どうか皆様の中にこの名に聞き覚えのある方がおられれば、ご家族の情報をお知らせ下さい!」と叫び、恭しく頭を下げた。
幕が下りはじめ観客たちは惜しみない拍手を送った。
「あの、先ほどの劇のことなのですが!」
幕の袖にいた仮面の男のところへ、団員に連れられて3人の男女が息を切らしながらやってきた。
ちょうどショーが終わり、客たちは目を輝かせて楽しかったひと時を語らいながら出ていくところであった。
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