第二十三話の2 守るための嘘
「魔物が出たぞ!」
そう叫びながら走りこんできたロンの姿に村人たちは仰天し、あたふたと逃げまわったのだという。
「魔物が来るぞ、オオカミが出た、盗賊がきた、そんな風に突然ロンが騒いで回るようになった。最初はみんな嘘に怒ったものさ。いくらなんでも、とね」
「それはそれは」
「だがみんな気づいたのさ」
あれを、とリックは指さした。
仮面の男は彼が指さすほうを見た。
村のはずれと森との間に頑丈な柵が張り巡らされている。
「ロンは一日一度必ず柵を見回ってくれている」
朝、村の人間が起きだす頃、柵をぐるっと回って穴がないか腐っているところはないか、慎重に確認して回るのだと。
動物が掘り返したような跡があれば、村長のところにすっ飛んでいってすぐに報告をした。
そういった話が広まるうちに村人たちはいつしか、ロンの嘘を災害への訓練として受け止めるようになったのだった。
「それにな」
リックが顔を向ける。
会話までは聞こえてこないが、芝生に座った女性に対しロンが身振り手振りで何やら話、女性が笑っているのが見てとれた。
「あいつは人を励ます嘘もつくんだ」
仮面の男の耳には聞こえていた。
「ほんとだって! おばちゃん今日は顔色いいよ! 病気が治る日も近いね」
「いやだねこの子ったら嘘ばっかり」
「ずっと笑ってたら病気も逃げてくよ!」
「なるほど」
仮面の男は嬉しそうにうなずいた。
「とある国ではロン君のように、オオカミがきたと嘘をつくばかりの少年がいたと聞いたことがあります。同じように村人をだましてばかりいたと」
「へえ。その少年も村のためを思ってかい?」
「いえ」
仮面の男は首を振った。
「ただ単に人をだますのが面白い、自分の嘘であわてふためくのが面白い。そんな少年だったようです」
「それで? その少年は誰かに叱られたのか」
「残念ながら」
仮面の男は人差し指を立てた。
「本当にオオカミの群れが現れた時、少年はそれを村人に告げたのですが誰も信用せず、少年も村人もオオカミに食べられてしまったそうですよ」
リックはびっくりしたように目を見開いた。
「そりゃあ怖いねえ」
「この村はロン君がいる限り大丈夫でしょう」
二人が顔を見合わせ笑った時、「すいませんリックさん」と声をかけてきた者があった。
「やあザルトじゃないか。どうしたんだい」
「井戸ってあちらの方角でしたっけ」
「いや、東側だよ」
リックはザルトが指さす方向と反対を指さした。
「こりゃどうも」
ぺこぺことザルトは頭を下げながら去っていく。
「あの方は」
「昨日きた郵便夫だよ。村に荷物を持ってきたっていうんだが、その荷物に手違いがあったとかで数日滞在するんだとさ。おたくのショーも見れるんじゃないか」
「お客様が増えるのはありがたいことですねえ、ええ」
仮面の男はもみ手をしてうんうんとうなずいた。
「さてと、長話しちまったな。明後日からだっけか。楽しみにしてるよ」
「いえいえ引き留めたのはこちらですから。あ、お話を聞かせてもらったお礼に良ければ」
仮面の男は懐からショーのチケットを数枚出して渡した。
「もらうわけにはいかないよ」
「いえ、お礼でございます。ついでに宣伝もお願いする代金込みでございます」
「それならもらっておくよ。じゃあ」
「はい」
仮面の男はリックの姿が見えなくなるまで見送ってから、荷解きの作業に戻った。
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