第二十三話の1 はじまりの嘘
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
嘘つき少年は何を得る?
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「魔物だ! 魔物が村に入ってくるぞー!」
その声に仮面の男は振り返った。
ショーの準備を物珍しそうに眺めながら雑談していた村人達もハッと顔をあげた。
叫びながら走ってくるのはところどころ破れた服を身に着け、薄汚れた少年。
「これは大変」
「子供たちを家の中へ」
女性たちはあわてて子供の手を引いてその場を離れ、男性たちは「武器を取ってくる」と走っていった。
「ふむ」
仮面の男が口をきゅっと結び、懐に手を入れた時である。
「はい、嘘でしたー!」
少年はけらけらと笑った。
その声に村人たちはいっせいに「ああよかった」と安心した顔になる。
「こらロン、いい加減にしろよ」
体格のよい男性が少年を叱る。が、どことなくその顔は本気で怒っているようには見えなかった。
ロンも「へへ、いい訓練になっただろ?」と笑いながら足早に離れていく。
ものの数秒で村の中はさきほどまでののどかな空気に戻っていた。
「もし」
仮面の男はロンを叱っていた男性を呼び止めた。
「今のは…」
「ああ、あんたらは旅の人だから初めてか」
その男性はリックだと名乗った。村のとりまとめ役のようなものだと言った。
「あいつは、ロンはみなしごでな」
5年前、腐って穴が開いていた柵を突き破り、魔物が一匹村の中に突進してきた。
四つ足で走るその魔物は牙を携え、建物にぶつかり、人々に突っ込み、たちまち村は混乱に陥った。
ある母と子が逃げ遅れ、魔物はそれとばかりにそちらへ一直線に突き進んだ。
「それを助けたのがちょうど旅人として訪れていたロンの父だった」
ロンの父親は勇敢にもその母子の前に立ちふさがり、お世辞にも上等とは言えない剣の腕で立ち向かった。
そして壮絶な戦いの果てに魔物は討伐されたが、同時にロンの父もその場で血だまりの中息絶えていた。
「我々はロンの父親に返しきれない恩を受けたんだ」
父にすがり泣くロンを気のいい老夫婦が引き取り村で暮らすようになったのだが、その老夫婦も一年前相次いで亡くなり、今はその家で一人暮らしをしているのだという。
食べ物は近所の人間が面倒を見ているようであった。
「母親はロンを産み落とすと同時に亡くなったようでな」
「それであの嘘とはどういう関係が」
「夫婦の家で暮らすようになってからだ」
リックはふう、と息をついた。
◇◇◇◇◇◇◇
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