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これなるは旅の一座にございます。煮ても焼いても食えません  作者: 春巧@金曜更新予定


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第二十二話の5 秘密のカーテンコール

 その時男は暗闇に鳴り響く笛の音を聞いた。

 子供たちの泣き声がピタリとやんだ。

「な、なんだ…何が…」

 馬がいななく。

 御者台を振り返ればもう一人の仲間はいなくなっていた。


「誰だ! 誰かいるのか!」

 男は手にもっていたナイフをやみくもに振り回した。

 暗闇の中、それは何かにあたった。

「いけませんねえ」

 空にあがった月の光が荷馬車の中に差し込み、相手が見えた。


 ナイフを二本の指で挟んでいる仮面の男だった。

 葉巻でも吸うかのような、そんな雰囲気の挟み方であった。


「だ、団長さん…?」

 ミラが見上げる。

「お嬢さんの前ですからあなたを砂にはしませんけど」

 仮面の男は虫でも挟んでいるかのようにひょい、と腕を動かした。


「私、これでも結構本気で怒ってます」

 さして力もこめていないように見えるのに、ナイフをつかんだまま男は馬車の外に吹っ飛んでいった。

 叩きつけられた音からして、あちこち骨折をして激痛でまともに動けないだろう。


「さあ、帰りましょうか」

 仮面の男はミラをそおっと、優しく抱き上げた。

「でも、ほかの子が」

「ミラさんは優しいですねえ。ほかの子は兵士さんが保護してくれていますよ」

「よかった」

 幌にぶつかった衝撃で赤くはれた頬を気にしもせずミラは笑った。


 実はそのころ街では、広場の前にさらわれたはずの子供たちが立っており大騒ぎになっていた。

 見つけた兵士とそれを聞いた親たちはテントから駈け出て、次々に子供を抱きしめた。

 ただ、ミラの両親だけが不安そうに、泣きそうにきょろきょろとしていた。


「あのね、団長さん」

「なんですか」

「教えてもらった縄抜け、役に立ったよ」

「それはよかった」

 仮面の男は懐から布を出してミラの頬にあてた。いつの間にぬらしたのか、それはひんやりとミラの頬を包み込んでくれた。


「ありがと」

「いえ」

 この馬をかりましょうかね、と仮面の男は言って馬車から馬の一頭を外すとミラをその背に乗せた。

 ひらりと自分も飛び乗り、夜道を走り始めた。


 途中「おや、月がてっぺんにのぼりましたよ」と言われてミラは空を見上げた。

 ちょうどその時足元に、仮面の男が投げ捨てた男が転がっていた。

 手足が奇妙な方向に折れ曲がった男はピクリとも動かない。

 空を見上げていたミラは気づかなかった。


 街が近づいてくると仮面の男は馬から降りた。

「ミラさん、今夜私がしたことは内緒ですよ」

「わかった」

 ミラは元気よくうなずいた。頬もすっかり元通りに戻っている。


 二人に気づいた人影が走ってこちらにやってくるのが見えた。

「ミラ!」

 母親であった。

「一人でよく戻ってきたわ!」

「え? 団長さんと…」

 振り返ればその姿は消えていた。

 不思議そうな顔をするミラに父と母は抱き着いて無事を喜んだ。


 翌日もショーは大歓声の中開催された。

 そこには大興奮で手を振るミラと、周りに「騒がしくてすみません」と謝る母の姿があった。

 昨日の顛末を知るものは、この大勢の中でただ一人しかいなかった。

「元気ですねえ」

 幕からこっそり顔を出した仮面の男は苦笑交じりにそうつぶやいた。


◇◇◇◇◇◇◇

余談

「第22話の1 喝采と贈り物」で団長が言った「チョットコレイトオ」は自分が打ち間違えたのをそのまま使いました。

お楽しみいただけていたら幸いです。


読んでくださりありがとうございます。

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