第二十一話の5 喝采とクシャミ
「なん、という…夢だ…」
ヴァンニョは深いため息をついた。
夢でよかったとこれほど思ったことはなかった。
汗で背中がぐっしょりと濡れているのが感覚的にわかった。
テーブルから水をコップに注いで一気に飲んだ。
窓からは明るい日差しが降り注いでいた。
ヴァンニョは朝食でも作るか、とベッドから降りた。
その直後、玄関の扉が激しくたたかれた。
「先生! 先生! いるかい!?」
「あ、ああ、今いくよ」
あわただしい声に、大きな声を出して応えてから、ヴァンニョは急いで身なりを整えて玄関へ急いだ。
「何かあったのかい?」
「先生の息子のヴィン君が!」
「…ヴィンに何か?」
いやな予感がした。
食堂の女性に導かれるままギルドへ急ぐ。
街の人たちが集まっている中をかき分け進んでいった。
「父さん!」
街を出て行った時と変わらない、元気そうなヴィンの姿があった。
否、今朝の夢でみたままの姿であった。
「どうした、何かあったのか?」
「? いや、帰ってきただけだよ」
その言葉にへなへなとヴァンニョは座り込んだ。
食堂の女性は「ええ、てっきり何かあったのかと思って急いで呼んできちゃったよ。ごめんね、先生」とのんきなことを言っている。
「それでね、父さん」
ヴァンニョの心配など気づかないかのようにヴィンは続ける。
「俺、この子と結婚しようと思うんだ」
後ろからひょこんとかわいらしい女性が出てきた。
「ミンです。初めまして」
ぴょこんと頭を下げる。
「冒険者をやめて結婚して、この街で働くよ」
「そ、それはまた、どうして…」
話せば長いんだけど、と言いながらヴィンは数日前、町の警備で死にそうな目にあったことを話した。
魔物に襲われて死にかけたところを、バンと名乗る冒険者に助けられたこと、致命傷をおったはずが、ギルドの医務室で目を覚ました時にはけがは跡形もなく消えていたこと、バンもまた仲間が戻ってきた時には消え失せていたこと…。
どれもこれもヴァンニョには心当たりのある話だった。
あれは…夢ではなかった…?
「父さんに助けられた気がしたんだ」
ヴィンはそう続けた。
ギルドで生還したとわかったその日に、ミナの家にいってプロポーズし、家族にも承諾を得たのだという。
「だからこうして急いで戻ってきた。俺はこの街でミンとともに生きていくよ」
「そうかい」
ヴァンニョは二人を抱きしめた。
医師の道を選んだことは多分よかったのだ。ああして息子を救えたのだから。
「そうだ、お祝いのしるしにこれからショーを見に行かないか。ちょうど面白い旅一座がこの街にきてるんだよ」
「それ、フィネチーにいた時に噂で聞いたよ」
「私もヴィンを誘って見に行きたいと思ってたんです!」
三人は事の次第を聞いていた街の人たちに拍手で祝われながら仲良く出て行った。
「やあこんにちは! 昨日ぶりですね!」
「ええ、団長さん。今日は三人できました。息子と、その嫁です」
「父さん、嫁はまだ早いって! プロポーズしたばかりなんだから」
「あらでも結婚してくれるんでしょ?」
「それはそうだけど」
「おお熱い熱い。道中もこんな感じなんですよ団長さん」
「なんとも素敵なことで。お祝いに良い席をご用意させていただきましょう」
仮面の男はにこにこと三人を見送った。
「いやーよかったよかっ…ヘキシ! ヘックショイ! ブエーックショイ! あーいやいやこれは風邪でなくて私がうわさされてるだけですからね?」
◇◇◇◇◇◇◇
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