第二十一話の4 砕け散った夢と掴み取った本物
「おや、新入りの冒険者かな? ようこそフィネチーへ」
目の前に冒険者となった息子が立っていた。
「ヴィンじゃないか。いつの間に帰ってきたんだい」
「ん? どこかで会ったかな?」
ヴィンは不思議そうな顔をしている。
「父親の顔を忘れたのかい、ヴィン」
「はあ?」
ヴィンが顔をかしげる。
ふと、横を向くと鏡が目に入った。
ヴァンニョは自分の姿が冒険者をしていた頃の若い年に戻っていることを知った。
そうか、これは夢なのか。
「あ、ああ、失礼。わた…俺はヴァンニョ…じゃなくてええと…バンという。君のお父さんの知り合いの息子でね、街で見かけたことがあるんだよ」
とっさにそうごまかした。
ヴィンはそれで納得したらしくうなずいて、「この町は初めてかい?」と尋ねてきた。
「いや、フィネチーは若いころ冒険の拠点に…じゃなかった、何度か来たことがあるんだ」
「そうか、それならよかった」
ヴィンは笑った。
「警備の仕事を受けたんだが仲間が一人これなくなってね。よかったらバン、頼まれてくれないか」
「え、俺は…」
「キミ、Bランクなんだろう? それなら問題ないよ」
指さされて視線を落とせば、自分の着ていた鎧の胸元に、Bランクであることを表す紋章が刻まれていた。
そうだった、自分はこの町でBランクに上りつめ、あの日はAランクへの昇進試験だったんだ。そして父が倒れたと知らせが届き、試験を諦め急いで家に戻った……。
ヴァンニョは力強くうなずき、ヴィンと握手をかわした。
警備の仕事は簡単なものであった。
町を守る塀をぐるりと一周。
その間にヴァンニョはヴィンやその仲間達といろいろな話をした。
故郷に一人置いてきた父が心配であること、実は結婚を考えている女性がおり、それを機に冒険者は引退しようと考えていること、仲間たちも納得してくれていること…。
夢だと思いながらもヴァンニョはそれが現実のことであるように思えてならなかった。
「あれ」
仲間の一人が素っ頓狂な声をあげた。
「こんな穴、あったか?」
地面にぽっかりと黒い穴が空いている。
ヴィンも「なんだ?」と言いながら不思議そうに近寄っていった。
「待て、それはサウザンワードのトラップだ!」
ヴァンニョの声は一歩遅かった。
穴から飛び出してきた黒い触手がヴィンの胸を貫いた。
すんでで飛びのいた仲間たちが触手を切り捨て、魔法を詠唱する。
ヴァンニョも「サウザンワードの弱点は熱だ!」と叫び、懐からアイテムを取り出して投げつけた。
仲間の唱えた魔法により火球が黒い穴にいくつも降り注ぐ。
耳をつんざくような叫び声を発して魔物は消滅した。
「こんな魔物初めて見た…」
「たまに遭遇することがある。空から降ってくるといわれている。油断させて獲物をしとめるんだ」
そう説明しながらヴァンニョはヴィンに急いで駆け寄った。
胸から流れる血が地面にしみを作っていく。
鎧を外して服を広げる。
「そうだ、止血薬と治癒薬を!」
左手が鞄を探す。
だが、それはここにはなかった。
ああ、私は今冒険者だったのだ。
「誰か、薬を持ってないか! それか大きな布を」
「え、今日は見回りだけだったから何も」
「私、薬師呼んでくる!」
それでは間に合わない。
手で胸の穴を抑えるが、噴き出る血は止まらなかった。
「ヴィン! しっかりしろ! 父さんが絶対に助けてやるからな!」
「…と…う…さん…?」
うつろな目でヴィンが見つめる。
「私は医者だ。絶対に助ける。死なせるものか」
パキン、と何かが割れた。
見れば自分の鎧が砕け散り、いつもの服装に戻っていた。
医者の、くたびれた服装に。
ヴァンニョはそばにある鞄から治癒薬を取り出し、ヴィンの体に振りかけた。
その途端、ヴィンの体がまばゆい光に包まれた。
目を開けていられず、ヴァンニョは反射的に目を閉じた。
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