第二十一話の3 夜の帳と追憶
「こんな年ですからもう冒険は無理ですが、たまに夢に見ます。世界を駆け巡っている冒険者としての自分を」
「なるほど」
食事を終えて茶をすすり、ヴァンニョはふうと息をついた。
「それに…私はもともとなりたくて医者になったわけではありません。町の人が困るというから医院を閉鎖するのももったいなく、見様見真似で始めたようなもの。そんな気持ちで医者をやっているのが皆さんに申し訳ないのです」
仮面の男はうなずきながら聞いている。
「だからこそ息子達には好きなようにしろと言いました。私がもし倒れたとしても知らせを出すつもりはありません。私の代で医院は終わりにします。最近は隣町にいい薬師が住み始めたと聞きますしね」
さて、とヴァンニョは立ち上がった。
「せっかく食事の席なのにつまらない話を聞かせてしまいました。年寄りの愚痴だと思ってお聞き流し下さい」
「とんでもない。あなたはずっとこの街のために尽力してこられた方です」
「そう言っていただけるといくばくかでも救われます」
二人は握手を交わした。
帰り際仮面の男は「これ、よかったら」と香を差し出してきた。
「よき夢が見られるおまじないのようなものです。以前にショーをやった街で手に入れましてね。うちの団員には配り終えましたので」
「それはそれは。ではありがたく頂戴します」
その夜のことだった。
香を焚いてみたヴァンニョは、「なんといい香りなのだろう」とうっとりしながら眠りについた。
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