第二十話の2 名君の影
「さらにここからが見世物でございます」
仮面の男が指をパチンと鳴らすと、下手のほうから同じ棺が現れた。
扉はあいており、中が空なのは見てとれた。
その扉を押してきた女性団員が閉める。
「では王様、失礼して」
仮面の男はそう言うと何か言いかけた王を無視してすばやく小さな扉を閉めた。
「さあ皆様、どうかどうかお見逃しなく!」
仮面の男が懐から横笛を出してヒュウヒュウと吹いた。
それが合図だったかのように団員が数人出てきて、王が入っていた棺を左右から押した。
すると棺はちょうど鉄の板を差し込んだところから左右に分かれ、上の部分は台座に固定されたまま残り、下の部分は団員が押すままに空の棺のほうへ移動していった。
時を同じくして、空の棺の下部も外され、ちょうど入れ替わる形になった。
「サァ皆様ご覧あれ。王様が入っているのはどっち?」
おどけたように仮面の男が手を振る。
客席から目を輝かせて見ていた貴族の子供らが、「あっちー!」「王様は向こうにいるよ!」と仮面の男が小さな扉を閉めた棺の上部を指さしてみせる。
「それではお代は見てのお帰りです!」
パンッと仮面の男が手をたたいた。
するとどうだろう。
女性団員が空だった棺の小窓を開くと、そこには王の笑顔があったのである。
「すごい! すごい!」
「どういう仕組みなんだ!」
場内は割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
扉が開き、中から王が出てくる。
駆け付けた警備兵からマントを受け取り羽織ると、観客たちにうやうやしく頭を下げた。
観客たちは立ち上がり、本当の惜しみない拍手を送った。
「やあ、ありがとう。素敵なショーを体験させていただいた」
「身に余る光栄でございます」
王は仮面の男にも頭を下げ、がっしりと握手した。
「良き一日であった。皆の者にも感謝する」
王は笑顔で観客たちに手を振り、時には親の制止を振り切って駆け寄った子供らの頭をなでながら自分の席に戻っていった。
その様子を間近で見た貴族達は目を丸くしていたが、何か言って目をつけられてはとばかりに口をつぐんでいた。
そうしてショーは終了した。
「団長どのよ」
客達が帰り支度をはじめ、あるいは子供のために動物たちの触れ合いを楽しむ客など熱気冷めやらぬ中、王が仮面の男に話しかけてきた。
「何でございましょう」
「今日は我のために市民たちを遠ざけてしまい申し訳ないことをした。明日はできれば平民たちの貸し切りにしてやりたいと思うのがいかがだろうか。もちろん料金は我が払おう」
「それはそれは、願ってもないことでございます」
仮面の男はもみ手をして頭を下げた。
「では後ほど使いの者をやろう。あとはよろしく頼む」
「かしこまりました」
恭しく仮面の男が頭を下げる。
会話を聞いていた侍従や警備兵らは顔を見合わせ、首をかしげながら、それでも何を言うでもなく王の後に続いた。
「団長、こちらの棺どういたしましょうか」
テント裏にて。
男性団員が仮面の男に声をかけてきた。
「あ、忘れてました」
先ほどショーに使われたばかりの棺の上部があった。
小さな扉を開く。
「おい、どうなったんだ。先ほどから何も起こらないではないか。我をこれほど待たせるとは、首をはねてくれる!全員皆殺しに──」
仮面の男はパタンと扉を閉めた。
「上半身だけってのも使い道がないんですよね…。ほんとにどうしましょう」
うーんうーんとうなりながら、仮面の男は歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
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