第二十話の1 暴君の影
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
お代は見てのお帰り
喝采、喝采
「フン、つまらんな。つまらんぞ!」
その声が会場内に響き渡った時、今まで熱気にあふれていた空気がシンと冷え、場内は静まり返った。
ステージの真正面、一番見やすい場所に広々と作られた、誰が見ても特別とわかる席。
上等な赤い布でしつらえられたソファにふんぞりかえる男が一人。
その頭には光り輝く王冠。
この国の王であった。
まだ青年とも思しき風貌は、それでも王の風格を漂わせていた。
周りには扇で仰いで風を送る者、冷えた飲み物をもって待機している者、侍従、そして警護の者が控えている。
ステージではライオンが犬をその背にのせ、ちょうど火の輪を潜り抜けたところであった。
「この程度のこと、城の馬でもこなすわ。つまらんな」
王のびりびりとした声に、周りの観客たちは肩をすくめた。
身なりからしてこの国の貴族であろう者たちが今日の観客の多くをしめていた。
王がショーを見物にくるというので平民たちは追い出されたのである。
「王の癇癪が始まった」
「静かに。機嫌を損ねるのではないよ」
「今日はこのショーがつぶされるのか」
「気の毒に」
「こないだは持ってきた商品が気に食わなかったとかで商人が」
「まあ。視察に出かけた時に動きにくかったからと、服を用意した侍従を家族もろとも追放したとか」
ひそひそ話がさざめきのように伝わっていく。
仮面の男がすっとんできた。
平身低頭で王に詫びる。
「もっと楽しませるものを用意せよとの仰せだ」
王の隣に立つ、ひげを蓄えた初老の男が言う。
どことなくびくびくと、王の機嫌をうかがうかのように横目でチラチラと王と仮面の男を見比べながらであった。
「もっと楽しいものを…」
仮面の男が顔をあげて試案するように頭を傾ける。
「我をあのステージに立たせよ」
いいことを思いついたぞ、といった顔で王が言う。
「ここにいる者たちの称賛を浴びるのは我でなくてはならん。貴様ら下賤のものではない」
「はあ」
仮面の男はとぼけたような声を出して王を見上げていたが、「わかりました」と言い、階段を駆け下りていった。
どうなることかと聞き耳を立てていた観客の間に、またざわめきが広がっていく。
少しして団員の女性がやってきた。
王は警備の兵を二人ほど連れ、優雅に階段を下りていく。
睨みつけられた観客たちがあわてて笑顔で拍手をはじめ、彼がステージにたどり着くまでには割れんばかりの拍手になっていた。
「それでは皆様今回とっておき! 今日この一度しか見られないショーの始まりです!」
仮面の男が声を張り上げ、王はステージに上がっていく。警備の兵も続いた。
ステージの中央に棺のような箱が台座に乗って出てきた。
棺は客席に向けて立った形で、顔にあたる高さのところに観音開きの小さな扉がある。
「王様にはこの中へお入りいただきます」
まずは警備兵が棺の中を改め、何も仕掛けがないことを確認した。
王はマントを警備の人間に手渡し、観客に手を振りながら中におさまった。
扉が静かに閉じられたあと、小さな扉が開かれ、王の顔が覗いた。
「この通り、王様は中にいらっしゃいます」
仮面の男の声に、いかにも付き合いといった感じの拍手が響く。
「サァサァ、お立合い!」
団員の男二人が大きな鉄の板を運んできた。
ひょいとそれを片手で持ち上げると、仮面の男は「それ!」と叫びながら棺のちょうど真ん中あたりにそれを差し込んだ。
客席からどよめきと悲鳴があがる。
警備兵もあわてて駆け寄ろうとしたが仮面の男がサッと手を挙げ制した。
扉から覗く王はニコニコとした笑顔のままだ。
「このとおり、板を差し込んでもなんともございません!」
仮面の男の声にどよめきが歓声と拍手に変わった。
みながキラキラとした顔で自分を見ているのに気付いた王は、満足そうにうなずいていた。
◇◇◇◇◇◇◇
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