第十九話の6 この世で一番大切なもの
とぼとぼと歩くオーリーの目に、町の隅にある教会が目に入った。
いつの間にか町はずれまできていたのだ。
ギイ、と扉を開ける。
平日であるからか人はいなかった。
シスターが一人、箒で床をはいていた。
「あらどうしたのお嬢さん」
「お祈りを、したくて」
「どうぞ」
そのシスターは微笑んで手招きしてくれた。
そうして掃除をやめ、外に出て行った。
オーリーはそろり、そろりと歩いていき、祭壇の前に膝をついた。
神様。
何でも欲しい人生って楽しかったけど、私が欲しいものは、本当に欲しいものは違ってた。
どうか、どうか、元の暮らしに戻して下さい。
私もう何も欲しがりません。
ヒュウヒュウとあの笛の音が聞こえた。
後ろからだ。
オーリーは反射的に振り返った。
しかし彼女の目の前に立っていたのは、ボロボロにやつれた母であった。
「オーリー!」
彼女は娘をしっかと抱きしめ、大粒の涙を流した。
「オーリーちゃんじゃないか!」
気づいた隣人らがわっと囲む。
「ママ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いいのよ」
人ごみをかき分けて走ってくる影があった。
「オーリー!」
「パパ!」
「見つかったのか! よかった!」
親子三人がしっかりと抱きしめあって涙を流す姿に、パチパチと周りから拍手が上がった。
「さあ、帰ろうか」
「よかったねえ、オーリーちゃん」
「今日はお祝いだね! いい野菜があるんだ、後でもっていくよ」
「ありがとうございます!」
親子は隣人らとニコニコと会話をしながら去っていった。
「忘れ物は見つかったのかい」
教会のドアにもたれていた仮面の男にシスターが声をかけてきた。
「ええ、先ほど見つかりました。私としたことがうっかりうっかり」
「嘘つけ。どうせ計算づくだったくせに」
「まあまあ」
仮面の男は懐から包みを取り出して「飴食べます?」とシスターに渡した。
その飴を受け取って口に放り込んだシスターは、「これは今回の働きのお礼ってことで」と言った。
「随分と安いお礼ですねえ。こないだ仕事を頼んだ夢魔さんは、ちゃんと謝礼を払うといったのに連れてくる間、一時間は文句言い続けてましたよ」
「あいつセコいからなあ」
シスターは飴をぼりぼりとかみ砕くと、「じゃ、また用事があればこの『真に悩める者の前にのみ現れる教会』を呼んでくれよな」
「いつも思うんですが、その名前なんとかならないんですか」
「創造主に文句言え」
ムッとした顔でシスターがパン、と両手を合わせると教会もシスターも掻き消えたのであった。
「さーて私も帰りますかね。荷馬車に追いつかないと」
仮面の男もそう呟いて馬にまたがると、今度こそ本当に街を後にしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
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