第二十一話の1 クシャミと特効薬
ギィ、ギィ
さあ始まるよ。
見世物小屋が始まるよ
お代は見てのお帰り
喝……ぶぇっくしょい!
「ヘックシュン! …ふぇ…ヘクショイ! ハクショ!」
立て続けに3回クシャミをして、仮面の男はズズ…と鼻をすすった。
「ねえねえ、どこかの国では、クシャミを3回立て続けにすると、誰かに惚れられてるっていうのだそうですよ」
木箱を持っていた女性団員があきれたように見て「団長、本番直前で忙しいんですから呼び止めないで下さい」と言って去っていく。
「はーい…」
仮面の男はしょぼんとしてステージの見回りをすべく小走りで駆けていった。
「ありがとうございましたー! ありがとうございましたー!」
熱気に包まれたテントから笑顔の客がぞろぞろと出ていく。
ある家族は「火の輪をくぐったピエロさんすごかった!」と子供の語らいに笑顔でうなずき、ある恋人たちは男性が「ライオンの背に乗っていた人、美人だったよな」と鼻の下を伸ばして女性にはたかれ。ほかの客たちも興奮気味に語らいながら歩いていた。
みな、ショーに満足しているのは明らかであった。
「お出口はこちらー。どうぞ皆々様お忘れ物の…ヘクシ! ヘックショイ!」
仮面の男がまた派手にくしゃみをした。
「もし、大丈夫ですか」
後ろから声をかけてきた男性がいた。
身なりの良いコートと靴。左手に革鞄をもっていた。
「ああ申し訳ありません、お見苦しいところを…」
「よかったらこれをどうぞ」
男性は鞄から小さなビンを出してきた。
「私は医者です。風邪かもしれませんから栄養剤です」
「いえいえそんな、いただくわけには…」
「どうかお受け取り下さい。実はこれもうすぐ使用期限が切れるのです。必要な患者もいませんし、捨てるしかないかなと思っていたのです」
「そうなのですか」
「そういったものをお渡しするのも失礼かもしれませんが、医者のおせっかいと思って」
「では遠慮なくいただきます。ありがとうございます」
仮面の男は小瓶を受け取り、満足そうに懐へしまった。
「何かお礼を…そうだ! よかったらこれから食事はいかがですか? ごちそうさせてください」
「そのような額の薬でもありませんよ」
「いえ、せっかくですからこの町のことでも教えていただきながら」
通路を歩く人もまばらになってきた。
二つの小さな太陽は山の向こうに沈みつつあり、夕暮れがせまってきていた。
太陽が沈めば労働者達は大急ぎで食事を済ませ、眠りにつく時間である。
「ではお誘いを断るのも失礼ですので」
医者はヴァンニョと名乗った。
町にある食堂への道すがらヴァンニョは、祖父・父からの医院を継いで医者をやっていること、年のためもうそろそろ引退を考えていることなどを話した。
妻は数年前に亡くなっており、息子二人は成人して一人は兵士になり、一人は冒険家として世界を回っているのだと。
「いやあすっかり今の生活が楽しいのか、手紙はよこすのですがなかなか帰ってこないのですよ」
ヴァンニョはそう言った。
◇◇◇◇◇◇◇
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