第十九話の4 私以外私じゃないの
「あれが欲しいわ! 持ってきて!」
「かしこまりました」
美しいドレスを身にまとったオーリーは侍女らをぞろぞろと連れて街中を歩いていた。
高級な商品を取り扱う店ばかりが立ち並ぶ通り。
ウインドゥに飾られている商品をオーリーはかたっぱしから購入させていた。
「なんて素敵な生活なの! 私が望んでいたのはこれだわ!」
希少で美しいといわれるオルソン鳥の羽根を使って作られた豪華な扇子を振りながら、オーリーは満足そうに購入した商品を眺めた。
恭しく数人の侍従がラッピングされたそれを馬車に積み込むところだった。
「今日はこれくらいでいいわ。明日また買い物に出ます」
「かしこまりました」
絢爛豪華な馬車に乗り込む。
「お嬢様。お茶会へのご招待がいくつかきているようで、お屋敷に戻られましたらご確認いただきたいとのことです」
「美味しいお菓子や珍しいお菓子のあるお茶会にしか行きたくないわ。それか、素敵なプレゼントをしてくださるとこね」
「かしこまりました。選定しておくよう伝えます」
夢のような生活が始まって十日が経過していた。
まるでお姫様のような部屋で目を覚ましたオーリーは、最初は事態が呑み込めず驚いていたが、声をきいて駆けつけてきたメイドや侍女、侍従がすべて自分の言葉に従うのを見てこの状況を大変気に入ったのであった。
そうして街にでてはあれこれを買い物し、食事は(彼女にとっては心当たりのない家族だったが)毎日好物ばかりが並び、あれが欲しいこれが食べたいといえば即座に並べられた。
大嫌いな学校も行きたくないといえば許されたし、一日中部屋に寝転がって菓子を食べながら本を読んでいても怒られない。夢のような生活だった。
わがままを言ってよかったわ!
彼女は自信をもってそう思っていた。
「うちの娘を知りませんか。探しているのです」
開かれた窓から急にそんな声が飛び込んできた。
「少々騒がしいようですね。失礼いたしました」
「待って!」
侍女が馬車の窓を閉めようとしたのを反射的にオーリーは止めた。
そうして窓から身を乗り出した。
ちょうどそこは貴族向けの店が立ち並ぶ通りから、平民の家やそれ向けの店が並ぶ通りの境目で、その街角に彼女の母が立っていたのであった。
着ているものはボロボロで、髪の毛もほつれており、いきなり10歳は年を取ったように見えた。
オーリーは目を見開いて、馬車を止めさせ駆け下りた。
慌てたように侍女もついて走っていく。
「ママ!」
オーリーは母のもとに駆け寄った。
どうして忘れていたのだろう。母の存在を。
ところが母親は怪訝な顔を向けた。
「これは貴族様…お見苦しいものを」
「どうしたの、ママ!」
自分の外見も、声も、何も変わっていないはずだ。
それなのに目の前の母親は自分のことを貴族の令嬢だと思っている。
「お嬢様、こちらの方と面識が?」
「私のママよ!」
「は?」
周りの人間も事態が理解できないのか、戸惑っている様子であった。
「お嬢様、私の娘を見かけられませんでしたか。髪はお嬢様のように左右で束ねており、茶色の髪の毛をしています。顔は私に似た様子なのです」
「ママ…」
オーリーは立ちつくした。
令嬢が取り乱したと勘違いしたのだろう、侍従らがあわてて駆け寄ってきてオーリーを抱え上げ、馬車に押し込むが早いか走り去っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
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