第十八話の2 二歩で飛び去り、雲をぬけて
しばらくしてのことだった。
夫婦に手紙が届いた。
開いてみればそこには、まるで今にも動き出しそうな笑顔の女の子が、観客に向かって両手を挙げている絵が描かれていた。その手には人形が握られている。
おそらくはショーに出たと見立てて描かれたものだろう。
「これは、クレアだわ!」
信じられない!という風に妻が叫んだ。
夫は手紙を読んで泣き崩れた。
“町の絵描きの方に頼んで描いてもらいましたよ”
仮面の男にはクレアの風貌は伝えていなかった。人形をそっくりの髪の毛の色にしたけれども、顔までは知らないはずであった。
「神様が私たちに贈り物をしてくださったに違いない」
夫婦は何度も何度もその絵と手紙を読み返して喜んだ。
ぽつりぽつりと、年に一度か半年に一度、不思議な手紙は届いた。
「まあ、空中ブランコをしているわ」
「こないだのはゾウの背中に乗ってたね」
「そうそう、ゾウの鼻に人形がちょこんと乗っていて、おもしろいったらないわ」
「きっと本当にクレアがショーに出ていたら、こんな風だったのだろうね」
大切に保管される絵と手紙は少しずつ増えていった。
5年の時が経過していた。
「あなた、あなた! これを見て!」
妻があわてて夫を呼んだ。その手にはいつもの手紙が握られていた。
「明日帰ってくるって書いてあるわ!」
「本当かい? でも…あの旅一座がまたここに来るとは聞いてないが…」
「手紙とともに帰ってくるんじゃない?」
「なるほど」
夫婦は笑顔になり、家の周りを掃除したり、町に出て食料を買ってきた。
人形とはいえ娘が帰ってくるのを夫婦として祝うつもりだった。




