第十八話の3 三歩めを止め、あの日を仰ぐ
「お父さん、お母さん、私帰ってきたわ」
「クレア、クレアなのかい?」
少し身長が伸びて恥ずかしそうに笑いかける女性はまさしくクレアだった。
夫婦はぎゅっとわが子を抱きしめた。
「ああ、信じられない」
「大きくなったね」
涙にぬれた目でクレアをじっと見る。
「ショーでは私、大人気だったのよ」
クレアはぽーんと宙返りをして見せた。
現れた大きな球に乗り、器用に移動しながらどこから取り出したのか、クラブを5個6個とお手玉する。
パッと球が消えたかと思うと、火がつけられた輪を3つあっという間に潜り抜けた。
「すごい、すごい!」
夫婦は手をたたいて喜んだ。
クレアは次々と芸を披露してみせ、そうしてうやうやしく夫婦にお辞儀をした。
「これで私のショーはおしまいよ」
「頑張ったんだね」
「すごかったね」
クレアを二人はもう一度強く抱きしめた。
「これが現実ならどれだけよかったか」
ぽつりと妻が言った。
夫は首を振った。
「もうクレアは戻ってこない。それでも、成長したお前が見れて、私はなんという幸せ者だろうと思うよ」
「そうね、あの人に感謝しなくちゃね」
夫婦は気づいていた。
これがうたかたの夢であることを。
「お父さん、お母さん、いつまでも元気でね」
そういってクレアは笑顔のまま消えた。
後には人形が残されていた。
「ああ、助かりましたよ。私はこういうのが本当に苦手でしてね」
「旅先で偶然出会ったからってここまで引っ張ってこられるとは思わなかった」
静まり返った夜の町。小声で仮面の男とフードを被った男が話していた。
「その代わり報酬は弾みますんで。ああ、なんならうちの一座にしばらく滞在していただいても」
「やだよ! お前その分働かせるだろ」
「これは残念」
フードの男は仮面の男が差し出した包みを受け取ると「確かに報酬受け取った」といい、マントをひらりと翻して空にあがっていった。
「また、どこかでお会いできるといいですね、夢魔君」
「やーだね」
仮面の男の声に、舌を出して夢魔は消えていった。
翌朝、夫婦は扉にひっかけられた袋に入っている人形を発見した。添えられた手紙には笑顔で手を振るクレアの絵姿が描かれていた。




